自ら発想し、構築する力を問う大妻中野の「新思考力入試」。そこには、「教育目標を表明する」という入試哲学がある

新思考力入試

「学芸を修めて 人類のために〜Arts for Humankind〜」を建学の精神とする、通称・妻中。「Beyond School」を掲げ、先進的なグローバル教育に定評のある妻中には全校生徒の11%、約160名の帰国生が在籍していますが、教育の大元にあるのは「リベラルアーツ」です。そして、「我々が決断を1年遅らせることは、生徒を10年待たせることになる」との信念の下、決断も速やかに、一丸となって「待たせない」教育を展開しています。
リベラルアーツを基軸とする学際的な学びで、物事をさまざまな視点から考えて思考を増幅させ、自分の力を社会に還元する志を育てる。その教育哲学を具現化した入試が「新思考力入試」です。また今、大学入試で総合型選抜が増えていることを踏まえ、自分の考えを表現し、発信する資質・能力の発掘を視野に入れた入試でもあります。その「新思考力入試」について、国語科の佐藤亮先生と、中1のR・Tさん、R・Sさんにお話を伺いました。

■受験生に秘められた、「新思考力」を見出したい

佐藤 亮 先生
※撮影時のみマスクを外していただきました。

御校は、「思考力重視は、グローバル人材育成の延長線上にある」とおっしゃっています。そこからも、リベラルアーツとグローバル教育がリンクしていることがわかりますが、国・社・理の合科型の「総合Ⅰ」、記述の「総合Ⅱ」、算数の「総合Ⅲ」という3部構成の「新思考力入試」にも、リベラルアーツを軸に据える御校の教育が垣間見える気がします。

「そうですね。総合Ⅰの合科型はリベラルアーツの観点から、3科目の能力をバランス良く見るというコンセプトで作問していますが、そこでは3科目の教科横断的知識や、自分の考えを的確に伝える表現力、問題文や資料から思考する応用力や発想力などを見たいと思っています。また、社会への関心も見たいと思っていますが、それは総合Ⅱの記述でも同様です」

社会への関心とは、具体的にどういうことでしょうか。

「小学校や塾で習っていない内容を出題することもありますが、そんな時も慌てずに、与えられた文章を読んだりグラフを見て、自分で考え解釈して意見を述べてほしいのです。その際、自分の経験を入れられるかが一つのカギになります。ですから、例えば『空飛ぶ車』が開発されているというニュースを見て『ああ、そうなんだ』で終わりにするのではなく、『そこには、こういう危険性もあるんじゃないか』、逆に『それによって、こういうことができるんじゃないか』と、自分でプラスαして考えることの重要性を、受験生のみなさんには心に留めてほしいですね」

まさに、受験生の秘められた「新思考力」を見出したいとうことですね。2022年の「総合Ⅱ」では、その「空飛ぶ車」がテーマに選ばれましたが、例年、妻中らしい視点から選んだ題材が扱われています。2例のみになりますが、ご紹介しておきましょう。

●「総合Ⅱ」の過去2年の出題

2022年の問題
今、「空飛ぶ車」の開発が世界中で進められています。(中略)日本政府も、安全基準や操縦免許など法整備の検討を進めており、2023年にも実用化することを目標としています。東京の空を、自由に“クルマ”が走る日がすぐそこまで来ているのです。さて、“クルマ”が空を走る近い未来、現在の生活と変化していると考えられることを400字から600字で説明しなさい。

2021年の問題
(東京オリンピックで使用されたピクトグラムを紹介した後、以下の問題)

現在、左側のように文字だけで表示される案内板は減り、ピクトグラムを目にする機会が増えています。このような「文字から文字以外への変化」について、あなたはどう思いますか。ピクトグラム以外の具体例も挙げながら、600字以内で意見を書きなさい。

<過去の入試問題はこちら>

「Ⅰ、Ⅱ、Ⅲのうち、この『総合Ⅱ』が一番差が出ますね。先にお話したように、ニュースを意識して見たり、そのことについて保護者の方と話したりといった、普段から考える練習をしているか、していないかの違いだと思います」

この「新思考力入試」は、2017年からスタートしましたが、 受験生に変化は見られますでしょうか。

「当初は記述を書ける受験生と、あまり書けない受験生の差がはっきり出ていましたが、最近はしっかりと準備して臨んでいるなという解答が増えました。総合Ⅱはもちろん、総合Ⅰにも記述が多いのですが、とくに文章力、段落構成など、クオリティーがとても上がっていますね。採点者にいかに的確に伝えるかということへの、受験生の意識が高まっているように感じます」

「新思考力入試」で入学された生徒さんには 何か共通する特徴はありますか。

「言われたことだけをやるのではなく、自分から動くタイプが多いかもしれません。本校では、そのような姿勢を育むことも目指していますが、入り口の段階で、もともと素養を持っていると言いますか。入学後には興味のある分野について進んで調べたり、夏休みに何かのコンクールに応募したりと、能動的に取り組んでいますね。そういえば、新思考力入試の1期生は今高3なのですが、総合型選抜対策のために小論文の練習をしている時、『中学入試の時、こういう文章を書いたな』と、思い出したと言っていました(笑)」

では、最後に受験生へのアドバイスをお願いします。

「自分表現と言いますか、アウトプットすることが得意な受験生には向いている入試だと思います。繰り返しになりますが、世の中で起こっている事柄について、普段から『なぜだろう』と考える習慣をつけてほしいですね。それができれば、勉強でも伸びます。また、記述する際は『つまり』と『例えば』が大事です。問題文には具体的な文章と抽象的な文章がありますが、問題文が具体的であれば『つまり』と自分の言葉で置き換え、逆に問題が抽象的であれば『例えば』と具体例を挙げられるようになるといいでしょう。受験生のみなさんには、経験を絡めながら自分の考えを表に出すこと、そこに期待しています」

■自分の考えを文章化することが好きな人は、ぜひ受けて!

左からR・SさんとR・Tさん(中1)
※撮影時のみマスクを外していただきました。

共に都立中高一貫校が第1志望だったR・TさんとR・Sさんですが、 大妻中野の「新思考力入試」を受験しようと思われた きっかけは何だったのでしょうか。

R・Tさん「都立を目指して勉強していましたが、それと傾向が似ていたことと、塾で配られた資料を見てみたら、大妻中野の校舎がきれいで制服も可愛かったので、魅力的な学校だなと気に入ったからです(笑)」
R・Sさん「私も都立一択だったので、私立についてはあまり知りませんでした。でも、都立は1日しか受験できないので、高校受験のない中高一貫校で、大学受験もしやすく、同じように思考力で受けられる良い私立はないかと塾の先生に相談したら大妻中野を勧められました。あと、R・Tさんと同じですが、校舎がとてもきれいで制服も可愛かったので受験を決めました」

実際に「新思考力入試」を受けてみて、どうでしたか?

R・Tさん「作文問題が都立と違うというのが印象に残っています。都立の場合は2ページくらいにわたる文章を読み、筆者の意見を踏まえて自分の意見を書くというものでしたが、大妻中野の場合は提示されたテーマについて、はじめから自分で考えて書くというものだったので、慣れない感じでした。すぐに書き始めてしまったのですが、今思えば、書くことをもっと整理してからやればよかったと思います」
R・Sさん「大妻中野の入試問題説明会の動画配信を見て、けっこう都立の問題と似ているなと思ったので、それほど不安はありませんでしたが、作文問題を見た時は、やっぱりちょっと驚きました。都立のようなしばりがないので、自分の考えをまとめるまで時間がかかりましたが、時間は十分にあったので大丈夫でした」

そして、大妻中野に入学されました。 まだ半年しか経っていませんが、勉強はどのような感じですか。

R・Tさん「英語の授業が一番好きですね。この間はグループワークをしたのですが、あるテーマについて英語で一人2行くらいの文章を考えて、グループ全員分を合わせて発表したのですが、それがすごく楽しかったです」
R・Sさん「数学がけっこう楽しくて。あと、実験とかも好きです。数学では家でスタディサプリで予習をしてだいたい理解してから、授業で先生がきちんと教えてくれるので、頭にしっかり入ります。わかりやすく教えてもらった後で問題をたくさん解くのですが、丸をたくさんもらえて自信がつくし、算数は苦手だったのですが、数学は好きになりました」

小4から塾に通い、習い事としてチアダンス、アクロバット、 ヒップホップ、習字を習っていたR・Tさんと、 小3の終わりから塾に通い、水泳、バレエ、習字を習っていた R・Sさんですが、部活動は何をされていますか?

R・Tさん「習い事のなかで、今はダンスだけ続けていますが、部活もダンス部です。ダンス部の練習は厳しいけれど、普段の先輩は優しいです(笑)。基礎からやるので、ダンスをしたことがない人でも楽しくできると思います」
R・Sさん「習い事は受験勉強が忙しくなったので、全部やめました。部活はバレーボール部で、中学に入って初めて取り組んだのですが、すごく楽しいです。活動は中高別で、たまに高校生と練習することもありますが、ボールが強くて(笑)」
R・Tさん「合唱部とか、たくさんの部が賞を取っているし、どの部活もすごく熱心ですね。気合いが入っています」
R・Sさん「授業はわかりやすく、みんな集中している。休み時間はクラスメメートとおしゃべり。そして部活ではクラス以外の友達ができるし、先輩も優しい。学校生活はとても楽しいです」

文化祭が終わったばかりですが、初めての「秋桜祭・文化の部」はどうでしたか?

R・Tさん「中学全体のテーマは『SDGs』だったのですが、中1は一人ずつテーマに基づいた調べ学習をして、A4サイズの紙にプリントアウトしたものを壁に貼って展示しました。私は『学習が受けられない人がいるのは、なぜ国によって違うのか』について調べ、パワポでグラフや表も作りました」
R・Sさん「私は『紙とプラスチック』について調べました。紙のほうが環境に良いと言われていますが、実際にどう違うのかがわからなかったので、それぞれの製品の違いと、良いところ、悪いところをまとめました」
R・Tさん「高校生のクラスでは、エコバックなど実用性のあるものの販売とかもあって楽しかったです。輪投げや射的もあってお祭のような雰囲気で、射的で的に当てるとお菓子をもらえて楽しかったです(笑)」
R・Sさん「中学の先輩の教室にも行きましたが、SDGsの目標自体は同じなのに、それぞれ個性があって勉強になりました。高校は学びもあるけれど楽しい感じ。中学は学びながら楽しんだ感じと、2つの楽しさを味わえました」

今の夢、目標は何ですか?また、将来はどんな大人になりたいですか?

R・Tさん「高校生になったら留学したいです。日本とは違う環境の中で勉強して、文化を味わってみたいので、もっと英語を頑張ろうと思っています。将来は、公私をしっかりと分けられる大人になりたいです」
R・Sさん「今、理科の授業で気象をやっているのですが、すごく楽しくて。高校生になったら気象予報士の資格に挑戦したいなと思っています。将来は気象予報士の資格を取って、人々に情報を伝え、大妻中野で身につけた品を大切に、周りから認められる大人になりたいです」

では最後に、この入試はどのような人に向いていると思いますか。先輩として、受験生にメッセージをください。

R・Tさん「自分の考えを、しっかりまとめて伝えられる人にお勧めしたいです。例えば作文は、『自分の考えを、経験など理由を挙げながら、結論づける』と、人に伝わるように順序よく書かなくてはいけないので、最後まで諦めずに頑張ってほしいです」
R・Sさん「考えることが好きな人、考えを文章化できる人は自信を持って受験してください。私は、もともと作文が好きだったわけではありませんが、普段のニュースとか、さまざまな情報を意識的に気にしていれば、作文は書けると思います。大妻中野に入った後は、とても楽しく、本当に充実した学校生活が待っています!」

取材Memo

みんなにとっての「幸せ」と「物事のあり方」を考えることができる人を育てる学校
1908年に大妻コタカが開設した私塾から大妻学院は始まりましたが、その33年後に開校したのが大妻中野です。校訓は「恥を知れ」。一見、語気強い印象ですが、学祖はこう説きました。「他人に対してではなく、自分に対しての言葉である。人に見られたり、聞かれて恥ずかしいことをしたかどうかを戒める言葉である」と。先進的グローバル教育には、英語力、国際理解力はもちろんですが、それ以上に、リベラルアーツを通して高度な知性を培うことと、高い品性が重要になります。そこは、妻中の普遍の教育哲学です。今回、佐藤先生と生徒さんお二人にお話を伺って、「自律」「協働」「貢献」を教育の柱とする妻中での学びは中高6年間だけではなく、入り口である入試にも確実に生きていることを再確認できました。


前向きな思考態度を身につけ、
「世界中どこでもリーダーシップをとることができる」
生徒の育成を目指す