非認知能力に着目した新型入試「プログラミング」を行う相模女子大学中学部・高等部

プログラミング型入試

小田急線相模大野駅から徒歩約10分。相模女子大学中学部・高等部は、幼稚部から大学院までが、東京ドーム4つ分もの広大なワンキャンパス内に点在する総合学園の中・高等部です。幼稚部ボランティア、高大連携による食育講座など、総合学園のメリットを活かして、学校種の枠を超えた交流や連携プログラムを推進。学業だけではないさまざまな体験を通して、これからの社会を生きていくうえで欠かせない発想力や思いやりの心を持つ人材の育成に取り組んでいます。

中学部では、従来型の教科型入試(2科または4科)に加え、「適性検査型入試」と「プログラミング入試」を導入しています。今回は、2019年から行われている「プログラミング入試」について、副校長の中間先生にお聞きしました。

中間 義之副校長 手にしているのは、学園キャラクターの「さがっぱ・ジョー」

プログラミング入試の導入のきっかけとは?

「相模女子大学小学部では、2017年度から全国に先がけて、人型ロボットPepper等を活用したプログラミング教育をスタートし、中学部でもプログラミングを導入しました。プログラミングの授業では、失敗から学ぶ姿勢や試行錯誤する姿勢、自由な発想が、教科の学習より顕著に現れると感じました。問題発見やその解決、答えのない課題に取り組むことで生まれる想像力や創造力、やり抜く力などは、従来型のテストだけでは把握しづらい『非認知能力』と呼ばれ、相模女子の教育においてはずっと大切にされてきた力です。プログラミングを通してこれらの力を見ることができるならばと、2019年から非認知能力にスポットをあてた『プログラミング入試』を導入することにしたのです」

プログラミング入試の様子

導入から5年。2023年度に行われたプログラミング入試について伺いました。
「課題は、車型ロボットを、各自が組んだプログラムによって移動させるものです。まずiPadとロボットのBluetooth接続方法や、ロボットの動かし方についての導入授業が約30分行われます。
授業を終えると70分間のプログラミング実習です。実習では受験生一人ひとりが実際にロボットを動かして、ゴールまで移動させるわけですが、プログラムがうまく組まれていないと、ロボットは思うように動いてくれません。そのうえ途中に障害物もありますから、簡単にはゴールにたどり着かないのです。受験生たちは、失敗するたびに試行錯誤を繰り返し、何とかゴールできるよう頑張ります。
プログラミング実習終了後は、数人のグループに分かれて、自分が作ったプログラムや工夫点などについて、1名約5分間のプレゼンテーションを行います。自分のグループがプレゼンを行っていない間には、20分間の基礎計算テストが行われます」

評価はどのように行われるのでしょうか?

「アドミッションポリシー(本校が求める生徒像)に基づいて作成されたルーブリックを用いて評価を行います。判断基準となる観点は多岐に渡りますが、私たちがもっとも大切にしているのは、『最後まで諦めずに取り組む姿勢』です。課題をクリアできない(ゴールできない)=不合格とは限りません。ペーパーテストと異なり、答えがないものを課題にしていますので、どうすれば合格できるのかと問われると答えるのが難しいのですが、なかには、私たちが想定していなかったような発想で課題をクリアしようとする受験生もいて、私たちもとても勉強になるんです。2023年度入試では、プログラミング入試に合格した生徒全員が中学部に入学しました」

受験にあたり、プログラミングの知識はどの程度必要になるのでしょうか?

「プログラミング入試という名称から、専門知識がないと難しいというイメージを持たれがちなのですが、私たちが大切にしているのは、受験生一人ひとりの『トライ&エラー』や『チャレンジ精神』です。本校のプログラミング入試は、将来のプログラマーを発掘するための試験ではなく、非認知能力を探り、伸ばすための芽を見つける試験。実際、受験者のほとんどがプログラミング関連の塾などに通ったことなどはなく、試験内容が楽しそう、と興味を持ったことによって受験しています。試験中も、プログラミング実習に関して教員は一切助けませんが、それ以前の設定などがうまくいかない場合は当然サポートします。つまり、挑戦してみたい、と思えば気軽な気持ちで臨むことができる入試スタイルなのです。入試の課題は毎年変わりますが、基本的なコンセプトは来年度入試も変更の予定はありません」

入学後、生徒はどう伸びていますか?

中学部のプログラミング授業

「入学後は、受験した入試のタイプに関係なく、同じクラスで学びます。塾に通って教科型入試で入学した生徒との学力差を心配する親御さんもいらっしゃいますが、気になるほどの差は感じません。プログラミング入試を導入して5年。この入試で入学した生徒は、非認知能力に長けているので、勉強以外のことにも積極的に挑戦する子が多いですね。本校のプログラミング入試で問われる非認知能力は、学びはもちろん、生活、仕事すべてに欠かせない力です。だからこそプログラミング入試で大切にされる力は、総合選抜型の大学入試やその後の大学生活、社会人になってからより大きく花開くのではないでしょうか。これから生徒たちがどのように成長していくかを、私たちもとても楽しみにしています」

プログラミング入試で入学した生徒の声

2023年度のプログラミング入試で中学部に入学した生徒さん2名が、入試の感想や入学後の学校生活などについて語ってくれました。

Aさん(中学部1年)
学校説明会でプログラミング入試の話を聞き、興味を持ちました。プログラミング入試体験会に参加してみたところ、とても楽しくて、ゴールしたときの達成感も格別でした。この試験なら、緊張することなく楽しみながら受験できると思いました。入試への対策としては、計算問題を解きました。
本番のプログラミング入試では、残念ながらゴールはできませんでしたが、自分なりに試行錯誤を繰り返しながら最後まで諦めずに頑張りました。プレゼンは緊張しましたが、聞き手の方に伝わるように大きな声ではきはき話すことを心がけました。
プログラミング入試を通じて、最後まで諦めずに考えることの大切さがよくわかりました。入学後も、わからない問題があっても諦めず、自分で考えながら日々の学びと向き合っています。

Bさん(中学部1年)
小学4年生の頃から、相模女子のプログラミング入試に興味を持っていました。入試は教科型(2科)で受けようと思っていたのですが、ちょっと自信がなかったので、プログラミング入試に挑戦してみようと思いました。入試前は、プログラミング入試体験会にも参加。わかりやすく説明してくれたので、とても楽しかったです。
プログラミング入試当日に改めて実感したのは、ゴールすることが目的ではなく、その過程の大切さです。プレゼンも3つのグループに分かれて行うのでプレッシャーもなく、自分の考えを伝えることができたと思います。
プログラミング入試によって、少しではありますが、プログラミングの知識が身につきました。入学後のプログラミングの授業でも、困っている子にアドバイスができましたし、それがきっかけで仲良くなれたので、とても嬉しかったです。

副校長先生から受験生へのメッセージ

「相模女子は、答えのない見えない未来を生きる生徒たちにとって、どのような力が必要かを考え、新しい取り組みにチャレンジする学校です。教わる学びから、見つける学びへ。『なぜ?』をたくさん見つけ、考える楽しさを体感しながら学んでほしいと思っています。相模女子は今もなお進化し続けています。気になったら、学校を訪れてみてください。プログラミング入試に関しては、入試直前の年明けまで体験会も実施しておりますので、興味がある方はぜひ一度ご参加ください」

取材Memo

自ら考え、行動できる「しかけ」を
幼稚部(認定こども園)から大学院までが一つのキャンパス内にある相模女子では、総合学園としてのメリットを生かして、預かり保育のお手伝いや、管理栄養学科の大学生から学ぶ和食のいろは、大学の講義を体験する高大連携講座など、多彩な学園プログラムが推進されています。
今後も非認知能力を育む「しかけ」を、授業や学校生活のなかにたくさん取り入れながら行っていくとのこと。何よりも、伸び伸びと楽しく学ぶ生徒たちの姿が印象的でした。