【和洋九段女子】のPBL型入試は、自由な発想で問題解決をプレゼンテーションする日本一入試らしくない入試。

思考力入試

2022年に創立125周年を迎えた和洋九段女子中学校は、PBLといえば和洋九段といわれるPBLの実践校。授業だけでなくあらゆる活動にPBLを取り入れた教育で、生徒自らが主体的・協働的に問題を発見し、解決する力を育てています。2019年には帰国生や一般入試に加えて、入学後の学びにつながるPBL型入試をスタート。一般入試とは全く異なるPBL型入試とはどんな試験なのか、また入学後は、どんなPBL教育が行われるのか。PBLを推進し、PBL型入試の試験官もつとめる新井先生にお聞きしました。

教頭 新井 誠司先生と今回の取材に答えてくれた生徒さん

まずPBLについて教えてください。

「PBL(Problem Based Learning)は、日本語では、問題解決型学習と訳されるアクティブラーニングの一つです。 『核抑止力についてどう考える?』『なぜ0で割ることを考えないの?』など、先生からのトリガークエスチョンに対して、生徒は情報を集め、意見交換しながら考えをまとめ、クラスメイトにその考えを伝えるためのプレゼンテーションを行います。和洋九段女子では2016年からPBL型授業を取り入れており、今では全教科をPBL型授業で行っています。『なぜ』『どうして』という問いかけは、生徒の知的好奇心を刺激し、またクラスメイトと協働して思考を深める学びにより、自分の考えを外に出すことが苦手な生徒も、PBL型授業という安心できる場を得ることで友達と一緒に考えることを楽しみながら発表までたどり着き、大きく成長しています」

朝日新聞主催のSDGsのターゲットを再設定するワークショップに参加したり、研修旅行先で外部の方々にプレゼンテーションを行ったり。PBL活動は、教室を飛び出して様々な学校生活の中で実践的に行われているといいます。

なぜPBL型入試を導入されたのですか?

「本校のアドミッションポリシーは、『多様な価値観を受け入れ、他者を思いやり、積極的に自分の能力を高めること』です。PBL型授業はまさにこのポリシーを具体化したもので、PBL型入試は入学してからの学びを試験化したものです。これからの時代は皆同じ考えではなく色々な価値観が求められてきますので、点数という価値とは異なる評価軸の試験で生徒を受け入れようということからはじめました」

PBL型入試はどのような試験なのでしょうか?

「基本的には、PBL型授業を入試に置き換えたもので、トリガークエスチョン(教員からの問題提示)に沿って個人で意見を考え、グループディスカッションを経て、採用された意見をグループ全体でよりよいものにしていき、最後に全員の前でプレゼンテーションを行います。PBL型入試は受験生が皆で協力し合って合格を目指そうという流れになっており、当日に初めて会った受験生同士が協働して、心からつながって喜びあって成長し、試験なのに笑顔があふれている、そんな『日本一入試らしくない入試』を目指しています」

PBL入試の試験風景

『日本一入試らしくない入試』の採点基準は?

「間違ったことを言っても減点されることはありません。できたことを積み重ねていく加点法です。具体的には、『率先して自分の意見を言えるか【積極性】』『順を追ってわかりやすく説明できるか【論理性】』『他の人が思いつかないような視点で考えられるか【創造性】』『同じグループのメンバーと協力できるか【協働性・コミュニケーション力】』『相手を批判せず、良い点を見つけ、それを伝えられるか【他者の尊重】』『わかりやすく、表現力豊かに発表できるか【プレゼンテーション力】』などを評価し、PBLの過程すべてが点数化されていきます。またPBLには『相手の意見を批判しない』『意見を聞いたら拍手をしよう』というルールがありますので、それは守っていただく必要があります」

またメモを取るときは、「話している人を見てうなずきながらメモをとる」こともポイントで、このようなポイントは説明会で教えてくれるといいます。
では、実際にはどんな試験だったのか、PBL入試を受験した生徒さんに、新井先生にも参加してもらいお聞きしました。

教えて!PBL入試のこと

小学生時代から習っている、お琴とヒップホップダンスを今も続けているA.Mさん

Q. PBL入試をどこで知り、なぜ受けようと思いましたか?

A.Mさん:小学校6年生の時に和洋九段のことをインターネットで調べてPBLを知りました。習い事のお琴の試験は緊張しすぎて泣いてしまったのですが、PBLの体験会に参加したら、本当に楽しくってとても試験とは思えませんでした。こんなに面白いなら全部受けてみようと思い、総合型とSDGs型の両方を受けました。
T.Mさん:文化祭に行ったら雰囲気が良く、体験会もフレンドリーな感じでいいなと思いました。PBLのことは体験会で知りました。体験会では「この後人類の移動手段はどうなっているだろう」というクエスチョンがだされ、普段から考えることが好きなので、ありきたりじゃない問題が面白そうだと思いました。

小説を書くのと書体が好きなT.Mさん。クラブ活動は水泳部。

Q. 総合型のPBL入試の問題、「中学生になった自分が友達とできるSDGsのアクションを考えよう」というトリガーが出た時、どう思いましたか?

A.Mさん:これをすべて満たすことは難しいなと思ったのですが、先生ができなくてもいいのでやりたいと思うことを書きましょうと言ったので、自分が作りたいものが作れてすごく楽しかったです。
T.Mさん:クエスチョンの幅が広くて難しかったのですが、広いとやれることが増えるのが面白いなと思いました。

新井先生:確かに範囲は広かったと思います。出題に込めたメッセージは、受験当時は小学校6年生の皆さんに『中学生になった自分』というちょっと先の自分を思い描いて欲しいなということと、自分がやりたいではなくて友達と一緒に協力してできるということでした。SDGsは、小学校でどのくらい学んでいましたか?

A.Mさん:総合の授業で17個あるゴールから1つ選んで、それについて調べてポスターにまとめて発表することはしていました。
T.Mさん:学校から環境問題についてまとめた冊子をもらい、それを見てみんなで意見を交換していました。

Q. 小学生時にSDGsの知識があったようですが、それが役立ったり、または知識がある分、考えにくくなったりしましたか?

A.Mさん: SDGsのたくさんある番号の中からどの番号をもとにして案を作るのか悩みました。
T.Mさん:知りすぎるとこれは現実的に無理だなと諦めちゃうものもあるので、幅は狭くても良かったのかなと思いました。

A.Mさんたちのグループが発表したのは、「水蒸気で走るオートバイ」。
環境にやさしいだけでなく、水も飲めるというのがGOOD!

話題は、事前に先輩たちから出題されたSDGsを題材にしたテーマに基づいて考え、当日プレゼンテーションを行うSDGs型入試へ。今年のテーマは「まちづくり」で、自分がめざすSDGsのGOALを選び、「格差のない町」「自然が豊な町」「誰もが学び続けられる町」「安心安全な町」「心も体も健康に過ごせる町」を考えるというものでした。

先輩生徒が中心となって作成した試験課題とその発表動画
https://youtu.be/0272YXSm_6U

Q. 先輩が作成したSDGs型のPBL入試の問題映像を見てどう思いましたか?

A.Mさん: 最初見た時は、えっどういうこと?って、よくわからなくて。何度も見たら、私の頭の中につくりたいことがあったので、こういう感じなのかな、というイメージがわきました。ただギリギリまで、「自然が豊かな町」と「安心安全な町」で迷いました。
T.Mさん:私も結構見ました。目標に合わせて考えるということはしていないので、改めてどの目標に当てはまるのかを考えるのが難しかったです。いろいろ考えても、みんな「安心安全な町」になるように私は思えたので、「安心安全な町」にしました。

Q. 当日の発表のために何か準備をしましたか?

A.Mさん:浮かんだ考えを一度書いてみたら、こういうことなんだというのが自分でわかりました。何度か練習して、話す順番や言い方を変えてみましたが、すぐに順番は決まったので、それほど準備した感じではありません。ただ5分に収まる練習はしました。
T.Mさん:ノートを作って、キーワードを書き出して文章を作りました。文章の組み合わせを変えてみたり、私は事前に結構練って、頑張りました。私も5分に収まる練習をしました。

T.Mさんのプレゼンテーションは、「町に設置する寄付ボックス」。

新井先生:T.Mさんの「町に設置する寄付ボックス」は、寄付する人が保険証を使うことでセキュリティーを確保している点がよく考えられていると思いました。また私が「寄付する人のメリットは?」という質問に、「自己肯定感」という答えが返ってきたのには、思わずうなってしまいました。

Q. 「自己肯定感」という言葉は準備していた言葉ですか?

T.Mさん:寄付する側のメリットは?という質問は想定していました。寄付は、気持ちの問題だと思うので「自己肯定感」と答えようと決めていました。
言葉は考えようと思っても出てこないので、いつも生活の中で気になった言葉やいいフレーズをメモするようにしています。「自己肯定感」もその中にありました。

話が盛り上がってくると、手の動きが出てくるA.MさんとT.Mさん。きっと言葉で伝えたいことが手に現れだすのかもしれません。あえて写真は手振りのある写真を選びましたが、取材中は笑顔と笑い声にあふれた、お伝えできないのが惜しいぐらいの楽しい時間でした。お二人とも学校が楽しくてしょうがないと言っていましたが、本当にそんな日々を送っているんだなと感じたことも書き添えさせていただきます。

取材Memo

他の人の意見にも耳を傾けるということ
和洋九段のアドミッションポリシーは「多様な価値観を受け入れ、他者を思いやり、積極的に自分の能力を高めること」。プレゼンテーションと聞くと自分が考えたことを主張するイメージがありますが、主張は自己主張ではなく、周りの意見と擦り合わせ、協働して磨かれた主張であることが大切です。画像は去年の受験生のメモ。ポイントを掴むメモ力が優れているだけでなく、何より素晴らしかったのは他のチームが話している際も、すべてメモしていたところだったといいます。自分の能力を高めるには、他の人の意見に耳を傾けることが必須ということを忘れてはいけません。