東京家政学院の「プレゼン入試」は、自分が今まで頑張ってきたことを「思い」を込めて発表する入試です

プレゼン入試

今年、創立100周年を迎えた東京家政学院。建学の精神の「KVA」とは、知識(Knowledge)を高め、技術(Art)を磨き、徳性を養う(Virtue)こと。1世紀にわたって「社会で活躍する自立した女性」を育成し続けています。「少人数制教育」で、丁寧できめ細かな指導に定評がありますが、中学では千代田区という立地を生かした地元密着型の探究活動を行って思考力や行動力、協働力を涵養し、高校からはコース制を敷くなど、生徒一人ひとりの個性に応じた教育を展開しています。そんな同校の入り口である中学入試もまた多様ですが、今回は「プレゼン入試」をご紹介します。まずは今年入学したお二人の生徒さんに、そして教頭の安達京子先生にお話を伺いました。

■「プレゼン入試」とは?
【試験日】
 2024年2月1日(木)午前

【試験内容】
 1時間目:学力試験(国語または算数/100点/45分)
 2時間目:自己PR(プレゼンテーション/活動報告書20点・面接80点の合
 計100点/約10分)
 ※自己PRは、事前に「活動報告書」を提出

【プレゼンのテーマ】
 自由(過去の例:ピアノ、バレエ、書道、バトントワリング、VR制作など)

【プレゼンの評価法】
 大会などの実績ではなく、プレゼン力自体を評価する(小学校までに自分が
 取り組んできたことを、自分の言葉で一生懸命わかりやすく伝える)
お話を聞かせてくれた、中1のH・Aさん(右)とM・Fさん
※撮影時のみマスクを外していただきました。

■「バドミントン」のことをプレゼンし、合格した時は、嬉しすぎて泣きました

まず、Aさんが「プレゼン入試」を受けようと思ったきっかけは何だったのか、教えていただけますか。

「今まで頑張ってきたこと、これから頑張りたいことを伝えたかったので受けました。今まで頑張ってきたことは、バドミントンです。私は勉強が苦手だったので、プレゼン入試があると知って『これだ!』と(笑)」

バドミントンは、いつからやられていたんですか?

「幼稚園の年長くらいです。クラブチームに入って。両親がもともとバドミントンをやっていたので、妹を含めて家族4人で一緒にやることも多かったです」

では、これから頑張りたいこととは?

「やっぱりバドミントンで、中学では全国大会で活躍できるようになり、高校になったらインターハイを目指したいと思っています」

入試の時の話も聞かせてください。どのような形でプレゼンをしたのですか?

「PCにスライドをまとめて、写真を貼り付けたりして資料を作り、それを見せながら発表しました。合格発表は家で母と一緒に見たのですが、自分の番号を見つけた時は、嬉しすぎて泣きました。母は『これからも頑張るんだよ』と言ってくれて」

頑張ってきたことで入試でも成果を出せて、喜びを知った経験は大きいですね。だからこそ、今も頑張れていると自分で感じることはありますか?

「あります。小学校では、授業などでも難しい問題はすぐに諦めてしまうところがあったのですが、今は『なぜ、こうなるんだろう』と気にかけるようになりました」

スポーツで鍛えられた粘り強さが、勉強にも活きてきたんですね。今は、何の教科が好きですか?

「体育です!」

即答ですね(笑)。

「体育の授業ではサッカーとか剣道、ティーボールなど、いろいろな競技ができるので楽しいです」

入学して半年が過ぎて、だいぶ学校生活にも慣れてきたと思いますが、部活動以外に、やってみたいことはありますか?

「勉強をもうちょっと頑張りたいです。そして、やっぱり同じくらい部活動も頑張りたい(笑)。先輩とやらせてもらうと、『強いな〜』と思ってばかりなので」

まだ1年生ですが、どんな道に進みたいとか、こういう人になりたいという目標はありますか?

「人の役に立てたり、必要とされる存在になりたいです」

そのためには、何が必要だと思いますか。

「積極的に、自分から行動することが大切だと思います」

では、後輩受験生に東京家政学院の魅力を教えてください。

「少人数制なので、先生方との関わりや友達との交友関係も深まるし、楽しい学校です。最初は友達ができるかなと不安でしたが、5月にオリエンテーション旅行で南房総に行き、そこで房州うちわを作る体験などをしながらいろんな人とたくさん話せたことで、すぐに友達ができました」

最後に、「プレゼン入試」はどんな受験生に向いていると思いますか。

「勉強面で不安だったり、入試形態に迷っていたら、プレゼン入試を受けてほしいです。好きなことをずっと頑張ってきた以外にも、ボランティアの経験とか興味のあることとかでもいいんです。興味を持ったことが夢につながることもありますから、自分の思いを伝えてください」

活動報告書は同校のホームページからダウンロードできます。
記入後は、簡易書留で郵送してください。

■「ソフトテニス」「縄跳び」「手話」をプレゼン。
 将来の夢は「犬カフェのオーナー」です

Fさんが「プレゼン入試」を受けようと思ったきっかけは何ですか。

「小学校でたくさんのことを頑張ったので、それを発表したかったのもありますが、たくさんの教科を勉強する自信がなかったので、自分の得意を発揮できるプレゼン入試を選びました」

たくさんの頑張ったことを教えてください。

「ソフトテニスと縄跳びです。ソフトテニスは小1の頃からやっていて、縄跳びは小学校で力を入れていたので、小3くらいからずっとやっています。『縄跳びコンクール』で自分の得意な跳び方を披露したり、『上級指導員』の資格も取りました」

上級指導員って、何をするんですか?

「通っていた小学校での資格なんですが、縄跳びを好きになってもらうためのボランティア活動をしたり、みんなに教えてあげて、学校全体でうまくなるようにするんです。あまり多くの小学校ではやっていないので、文化としてもいいと思います」

縄跳びは、今もやられているんですか?

「時間のある時に、家の庭でやっています。音楽をかけて自分で技を考える『リズム縄跳び』とかも」

それは、ソフトテニスにも役立っていますか?

「はい。脚の筋力とか手首が強くなりました」

相乗効果があるわけですね。あえて言えば、どちらが好きでしたか?

「ソフトテニスです。仲間もいて、みんなで頑張ることができたので。もともと父が運動が好きだったので、最初に姉がソフトテニスのクラブチームに入って、幼稚園児だった私はサッカーをやっていたんです。でも、男子しかいなかったので試合にも出られず、楽しくなくなって。だから、私もソフトテニスに」

中学でも迷わずソフトテニス部に入られたそうですが、部活動はどうですか?

「私は小学校の時からやっていたので目標が高いほうだと思うのですが、みんながみんなそういうわけではないので、楽しくやることを意識しています。楽しくやって勝てたら、それが一番という(笑)。小学校での試合の時に歌っていた『声かけ』の歌があるんですが、それを今、みんなに教えて楽しくやっています」

中学の部活動にはすぐ慣れましたか?

「受験する前から、東京家政学院の部活にはたまに来ていたので」

え、どういうことですか?

「学校説明会に行った時に、高校のソフトテニス部の顧問の先生とお話しする機会があり、『何か、興味のあるものはあるの?』と聞かれたので『ソフトテニスです!』と。そうしたら、『じゃあ、来てみますか?』と誘ってくださり、1カ月に2〜3回練習に参加させてもらっていました。先輩も、みなさん優しくて」

良い学校ですね(笑)。では、学校生活について聞かせてください。何の教科が好きですか?

「やっぱり体育です!私は小さい頃から公園で遊んでいたのですが、汗をかいて楽しむことが大好きなんです。それと、スポーツ全般が好きなので、なんでも上手くなりたい気持ちがあって。あと、ルールもスポーツによって違うので勉強になります」

大好きなスポーツを通していろいろ学んでいて、応用する力が身についていますね。

「はい(笑)」

今の段階での夢があれば、教えてもらえますか?

「私は幼稚園の頃から夢があって、それが今も全然変わっていないんです。それは『犬カフェのオーナー』です。生まれた時からずっと犬がいる生活だったこともあるかもしれません。実際に犬カフェにも行ったんですが、私のイメージとは違っていたので、自分の作りたい犬カフェを考えているところです」

それは、どういうものですか?

「犬がいるだけでは来てくれる人が限られるので、どんな人でも来れる場所にしたいんです。耳が聞こえなくても、目が見えなくても、外国人でも。だから今、まずは英語と手話を勉強しています。手話はテレビ番組の『みんなの手話』を見たり、本を読んだり、あとサイトで見つけた先生とスカイプでレッスンしています。あとは、料理を勉強したり、美味しいコーヒーの淹れ方も練習しなくちゃと思っています」

すごい行動力ですね。思っているだけでなく、ちゃんと動こうとする。それは、小さい頃から習慣づいているものですか?

「そうかもしれないですし、ソフトテニスで『諦めない』ことと『努力は結果につながる』という2つのことを学んだからだと思います」

ここで、入試の時のお話も聞かせてください。プレゼン入試では、どんな形で発表したんですか?

「小学校でiPadを使い始めたのですが、先生にいろいろなアプリを教えてもらっていたので、活動内容の資料を作って、パワーポイントを使いながら、幼稚園から小学校までスポーツをどういうふうに頑張ってきたかを発表しました。あと、手話のことも入れました」

では最後に、後輩受験生にメッセージをください。

「私は勉強はあまり好きではなくて、受験勉強も泣きながらやっていたのですが、頑張ればきっと良いことがあるので、自分を信じて頑張ってほしいです。私も今、すごく楽しい毎日なので、頑張った先には素敵な毎日が待っていると思います」

■一生懸命頑張ってきた「思い」を伝えてください。
 「勉強の力」は、入学してから伸ばします

お話を伺った、教頭の安達京子先生
※撮影時のみマスクを外していただきました。 

「プレゼン入試」を始めて5年が経ちました。受験生に何か傾向の変化を感じられることはありますか?

「傾向の変化はあまり感じませんが、受験生それぞれのキャラクターにバリエーションがありますね。それが入学してから、周囲の刺激になっている部分があるように思います」

御校は、6年間をかけてプレゼン力を育てる教育を展開されています。そういう意味でも、この入試の意義は大きいですね。

「そうですね。本校では入学後も一人ひとりプレゼンする機会が多いですし、社会に出た時にプレゼンするのは普通のことですから、中1からそういう場が多いのはいいかもしれませんね。生徒たちが社会に出た後には『できて当たり前』と思っているかもしれません(笑)」

プレゼン入試では、国語か算数の試験もありますが、小学校で勉強したことを振り返っておけば大丈夫なのでしょうか。

「過去問を繰り返し解いてください。勉強の力は、入学してからも伸ばします」

お二人の生徒さんに伺ったところ、入試の時はPCを使ってプレゼンしたそうですが、他にはどのような受験生がいるのでしょうか。

「やはりパワーポイントで作った資料を使った発表が多いですが、なかには、スケッチブックに手描きをして紙芝居のように見せながら発表する受験生もいます。形式は自由です」

ところで、お二人の生徒さんは仲が良さそうに見えたので、同じクラスかと思ったら「違う」と。「入試の時、いたよね」と、そのような親和性もあるようですね。

「そうですね。あとは、部活動の結果をお互いにわかっているので、二人とも負けず嫌いと言っていましたが(笑)、『負けられない!』という良いライバル関係も生まれているのかもしれませんね」

お二人とも先生と生徒の距離が近いとおっしゃっていましたが、生徒さん同士もそうなのではないでしょうか。プレゼンの機会が多い御校ですが、例えば、「あなたの発表を聞くから私のも聞いて」と、声をかけ合っているのではないかと、そういう雰囲気を感じました。

「ありますね。そこで、『ここは良かったよ』と、お互いに助言し合っているのではないでしょうか。それは大きいです。教師からの言葉も大きいですが、同世代の友達から言われることは嬉しいですし、自信になりますから。アドバイスし合えるという関係性は大事ですし、それができる環境を作ることも大事だと思っています」

では最後に、先生から受験生に期待することなど、メッセージをお願いします。

「プレゼン入試は、自信のあることをアピールするというイメージかもしれませんが、それだけでなく、6年間の小学校生活を振り返った時、伝えたいことがあれば伝えてほしいというものです。それは、中学に入ってからも必ず自分の力になっていきますので。今年は、ヘアドネーションのボランティア活動を行っている受験生もいましたが、髪を伸ばす過程を追った写真を見せながら発表してくれました。ちなみに、その生徒は今も活動を続けています。今日の二人に共通するのはスポーツですが、何にでも好奇心を持っている受験生を待っています」

大会やコンクールなどでの実績は不要ですね。

「あれば拝見しますが、採点はしません。『いかに自分の思いを伝えるか』というプレゼン力だけを見させていただきます。ただ、どの受験生を見ても、親御さんの姿が目に浮かびますね。成功体験の機会を作るなど、お子さんに上手に自信をつけさせているなと感じています」

中1・2が合同班を組む「“こころ”と“まなび”をTSUNAGUプロジェクト
(通称ポスタビ)」は、千代田区の商店や企業を訪ねて行う同校伝統の探究活動

取材Memo

「マルチプルインテリジェンス(多重知能)」を見出し、伸ばす学校
同校では、次代に求められる人物像を見定めて「マルチプルインテリジェンス」理論に基づいた指導を実践しています。これは、ハーバード大学の教授が提唱する教育概念で、他者の意見に耳を傾けるコミュニケーション能力や、グループをまとめるリーダーシップ、また絵を描く能力なども重要な学力と捉え、生徒一人ひとりの個性や可能性を評価するものです。今回、生徒さんお二人は目をキラキラさせながらお話ししてくれましたが、共に「勉強は好きではなかった」と口にしました。でも、実は多くの小学生がそうではないでしょうか。勉強とは、その本当のおもしろさや、一つひとつのことがさまざまに結びついていることを知った時に、初めて本気で取り組めるもの。安達教頭が言う通り、勉強の力は入学後にいくらでも伸ばせるのです。それよりも、お二人のように「好き」なことに夢中になって自分でつかみ取ったものは、すべての起爆剤になり得えます。まだ中1ですから、夢は変わるかもしれません。でも、お二人が持つ意志の強さや行動力、そして好奇心いっぱいに物事に向かう姿勢は、この先どの道に進もうとも、自分自身を支える大きな軸になるはずです。このような素養を入試の段階で見出そうとすることからは、同校の教育哲学を垣間見た気がしました。

「家政学」をスクールアイデンティティーとする同校では、
中1で「マイかっぽう着」を少し大きめに縫い、調理実習で中学3年間着用する