清泉女学院の「アカデミックポテンシャル入試」は、アカデミックに「人としての素養」を高める6年間の教育のプロローグです

アカデミックポテンシャル入試

キリスト教精神に基づき、「世界中にいる何億何十億という人々を心に抱く」という創立者の志の下、心を育て、知性を磨く清泉女学院。1947年の創立以来、リベラルアーツを中軸に、アカデミックな学びを展開しています。ここでは、同校で実践される学びのプロローグとも言える、受験生の可能性を見出す「アカデミックポテンシャル入試」(以下、AP入試)をご紹介します。このAP入試は総合型試験であり、「考える力」「表現する力」「異なる教科で学んだことを統合する力」を測る設問による60分の試験です。「AP入試」に込める思いを、中学入試・広報部長の北宮枝里子先生に伺いました。

自問自答を重ね、自分自身を発見して肯定し、他者と共に生きる意義を体得する6年間

中学入試・広報部長の北宮枝里子先生
※撮影時のみマスクを外していただきました。

2024年に5回目を迎える「アカデミックポテンシャル入試」ですが、まず、この入試を設置した経緯からお聞かせいただけますでしょうか。

「2020年にスタートした入試ですが、それまではオーソドックスな教科型入試のみでした。ところが、社会で求められる力が変わってくるなか、大学入試改革も叫ばれ始めたことをきっかけに、基礎学力以外に『変化の激しい世の中を生き、不測の事態に遭っても柔軟に対応できる力』を中学入試でも問いかけていこうと、AP入試を設置しました」

2年前が「0(ゼロ)」、昨年が「いざ、鎌倉」、そして今年が「海と人」と、AP入試では、その年のトピックや身近なことをテーマに取り上げています。内容を拝見すると、まさに御校が実践されているアカデミックな教育の縮小版と言いますか、プロローグのようですね。

「そうですね。社会の変化や大学入試改革が導入のきっかけになったことは事実ですが、回数を重ねていくうちに新たに浮上してきたものがありました。それは『これは、普段のうちの授業じゃないか』という教員たちの気づきです。ですから、このAP入試には2つの軸があるような気がしています。一つは、先に申し上げた『世の中の変化に柔軟に対応できる人を育てる』ために、もう一つは『普段の授業で実践していることを、清泉での生活の1日目にあたる入試で体感してもらう』ということです。当たり前にあるものを異なる視点から見てみる、違う切り口から考えてみるといった授業は、昔から本校の教員たちがやっていることですので」

その、御校の授業エッセンスが生かされている問題を、今年度の試験問題を例に具体的に教えていただけますか。

「例えば、問7では港を広げて工場を建てたい企業の社長と、沖合まで生えているアマモの環境保護団体のやりとりが出てくるのですが、別紙資料をもとに、資料番号を挙げながら『それぞれの主張をできるだけ多く述べなさい』という問題を出しました。その別紙資料には、一見するといかにも社長が使いそうな情報と、いかにも環境保護団体が使いそうな情報が載っているのですが、それとは明記せず、どちらを使ってもよい形にしました。どういうふうに使ってくるかなと楽しみにしていたのですが、環境保護団体が使いそうな資料を使って社長が主張を述べている解答や、その逆もあるなど、固定観念にとらわれずに、発想が柔軟だなあと感動しましたね」

普段の授業も、同様な感じで行われているのですね。

「そうですね。例えば、テーマに対して『自分の考えを書きなさい』と問われた場合、自分の考えを誤解のないように相手に伝えるのは当たり前です。ただ、そこに留まるのではなく、それとは反対の立場の意見も同じように構築できなければと、あえて二項対立をとります。『Aさんの述べたいことをAさんの立場で答える』と同時に『Bさんの述べたいことをBさんの立場で答える』と。本校の理念は『他者のために生きる』ですが、そのためには自分の主張も大切だけれど、他者の気持ちや状況に寄り添っていくことが重要です。それができたうえでなければ、自分の意見をもって相手を説得することはできませんから」

ところで、今年の問5では4コマ漫画も登場しています。失礼ながら、文章題でもいいところ、わざわざ先生が漫画を描かれている。問題からは、先生方の熱量がダイレクトに伝わってくるように思います。

「『待てば海路の日和あり』ですね。もちろん文章題でもいいのですが、受験生のみなさんは文章を読むことには慣れていると思いますので、このように漫画にすることでその物語を読み取れるか、言ってみれば、この不測の事態に対応できるかを見る問題となっています。そのためだけに、描いた教員は腕を振るいました(笑)。昨年の『いざ、鎌倉』では、旅行をしている感覚で問題を解いてもらうために資料となるガイドブックを作ったのですが、そこに掲載されている写真も教員が現地に行って撮ってきたものです」

※2023年度「AP入試」の問5より

一貫したストーリーの中に、理系や文系、芸術系の要素があるなど、AP入試の問題は多角的な視点から作成されています。そこにも、作問の先生方の熱い思いがあふれていますね。

「作問チームの教員たちが集まり、自分が専門とする部分をどう出していけるか、そこには相当な生みの苦しみもあります。ただ、互いに教科や専門分野が違うなかで出し合ったものが化学反応を起こすことがよくあり、楽しんで作っているとも言えますね(笑)」

AP入試の1期生のみなさんは、高1になりました。AP入試で入られた生徒さん方に、共通するタイプなどはあるのでしょうか。

「AP入試で入学した生徒には2つの傾向があります。❶受験勉強を頑張ってきたけれど、本校の1・2・3期試験で残念だったケース。教科型では力を発揮できなかったけれど、APでは発揮できた人。❷受験勉強はあまりしておらず、習い事などに一生懸命打ち込みながら、新タイプの入試だけを受験した人です。この2つの経緯はまったく違うのですが、不思議なことに、けっこう共通点がありますね。それは『タフ』だということ。❶では、後半日程まで受験し続ける精神的タフさがありますし、解答を見てみると知識に頼らない柔軟さを感じます。❷では、習い事などで困難にあっても乗り越えてきたことで精神力が鍛えられ、目端が利くように感じます」

予測不能なことに向き合い、一つひとつ扉を開けていくためには、「タフ」であることは重要です。みなさん、頼もしいですね。では、このAP入試は、どのようなタイプの受験生に向いている、あるいは挑戦してほしいと思われますでしょうか。

「試験に予想していなかったことが出てきても、それをおもしろがれる人でしょうか。本校では多角的・多面的な授業を行っていますので、情報が多くて大変だなと手放すのではなく、こんな見方もできるのかと楽しめる受験生を待っています」

では最後に、御校の「AP型入試」を受けようと考える受験生が、今から準備できることについてアドバイスをいただけますか。

「普遍的な学力、つまり小学校の国・算・社・理の教科書に載っていることをきちんと理解できていれば大丈夫です。ですから、そのベースは固めてほしいですね。塾に通わなければ解けないことは出題しません。あとは、普段から部活動や習い事など、いろいろなことを頑張ってやってほしい。そして、家の手伝いや遊ぶことも大事です。生きていくうえでは家事や遊びから学ぶことも多いですから、そのような経験も順当にしてほしいですね」

■「アカデミックポテンシャル(AP)入試」募集要項

●試験日程:2024年2月4日(日)14:30〜15:30
●募集定員:10名
●試験科目:思考力・表現力・総合力を測る

AP入試には清泉女学院の教育実践のエッセンスが散りばめられていますが、ここで、同校の4つの教育の柱もご紹介しておきましょう。

■清泉女学院/教育の4つの柱

「ライフオリエンテーションプログラム」
キリスト教精神に基づいて「心」を育てる、同校の教育の根幹をなす総合的プログラム。「いのちへのまなざし」「自己との対話」「他者への共感」などを育むために、さまざまな体験を通して自分をインスパイアし、自分の力をどう活かして生きるかを考えていく。

「グローバルプログラム」
身近な人だけでなく「世界中にいる何億何十億という人々を心に抱くように」という創立者の志の下、地球市民としての自覚と責任を促すプログラム。語学教育や異文化理解、国際交流だけでなく、持続可能な社会をつくり上げていく使命感とスキルを身につけるために教科を超えた学びを実践する。

「ライフナビゲーションプログラム」
未来を切り開く「知」を創造するプログラム。急速に変化する現代社会の中で自分の使命を果たしていくためには、論理性と柔軟な思考力によって創造的な解決法を見出す力が必要と、大学の授業体験や社会人の講演、探究活動などを通して将来の目標を明確化していく。

「サイエンス・ICTプログラム」
未知なる世界へ好奇心と探究心を持って取り組むプログラム。野外学習や実験観察を通して、自然の事象から法則性を見出す洞察力と思考力を育む。また、ICTを活用した協働型学習を実施し、社会をより良くし、環境に優しく生きるためのスキルとして科学技術を身につける。

同校は、2018年から「学校情報化優良校」として認定されている

そして、もう一つ。同校の「ポテンシャル入試」には2種類ありますが、あと一つは算数1科型の「STEMM(ステム)ポテンシャル入試」です。これも同校で展開される教育の序章となっていますので、併せてご紹介します。

■「STEMMポテンシャル(SP)入試」募集要項

●試験日程:2024年2月4日(日)15:50〜16:50
●募集定員:10名
●試験科目:算数1科目

SP入試は2021年より設置され、算数を通して論理的思考を問う入試です。
算数1科型ではありますが、例えば、今年は「示された条件のもとで、動物園の動物を見て回る順番を考える」など、計算を使わない柔軟な思考力を問う問題も出されました。

北宮先生:「受験生には、やはり算数や理科が得意な人が多いですね。今年は『足す・引く・かける・割る』の四則演算だけで実は幅広いものを解明することができるという柔軟な思考力や、計算すらも使わないプログラミング的思考力を問う問題を出題しました。本校では『サイエンス・ICTプログラム』にも力を入れていますが、その学びの場で活躍することを期待しています。また、いずれは数学オリンピックや科学オリンピックなどにも挑戦してほしいですね」

AP入試で入学した先輩たちからのメッセージです!

●Rさん(中2)
AP入試を受けたのは他の回で合格できず、でも清泉に入りたかったからです。AP入試の前日に塾の先生と2年分の過去問を解きました。実際の入試では、全体テーマが鎌倉についてだったので、過去問より好きなテーマでした。試験内容で一番印象に残っているのは、いろいろな資料から登場人物の要望に合わせて鎌倉観光のスケジュールを立てる問題です。手応えがあったので、合格した時はとても嬉しかったです。学校生活で一番楽しいのは、クラスや部活の友達と話している時ですが、新入生歓迎集会では先輩方が大歓迎してくれました。今、私はバレーボール部に所属し、充実した日々を過ごしています。

●Sさん(中2)
私は、どうしても清泉女学院に入学したいと思っていました。AP入試はテストの点数ではわからない「自分を発揮できる」場所だと思ったし、過去問を解いた時に問題がおもしろかったので、もっと解いてみたいと思い受けました。ありのままの自分を試すテストだと思っていたため、特に準備はしませんでしたが、小学校では自分磨きやいろいろな活動、先生のお手伝いなどを積極的に行いました。それは今の自分に繋がっていて、だからこそ生徒広報や清泉PeaceProject(有志の福祉団体)、Update(有志のボランティア団体)、生徒委員会などの活動に参加し、楽しんで行えているのではないかと思います。実際の入試では、はじめは大設問が少なかったので時間に余裕があると思いましたが、登場人物みんなの意見を聞いて旅の計画を立てる問題に時間を使ってしまい、焦りました。でも、解いていくうちに、試験を受けているということを忘れてしまいそうなぐらい楽しい問題でした。小学生の時は勉強は苦痛でしかなく、耐えたもん勝ちだと思っていましたが、清泉に入学して勉強の楽しさがわかった気がします。清泉は、そんな勉強の楽しさが知れる場所であることが一番の魅力ではないかと思います。

●Aさん(中3)
もともと公立中高一貫校を目指して適性検査の勉強をしていたので、普通の入試より対策しやすいと思って受験しました。過去問を解いて傾向を知ったり、ニュースや新聞などを見て今の情勢を知るなどの準備をしましたが、意外と数学のような問題が多く出て驚きました。でも、きちんと対策していれば時間が足りなくなることはないと思います。今は、授業でクロームブックを使ってレポートを提出したり、ジャムボードで意見を共有したりするのが楽しいです。講堂2階ロビーには聖書の一場面を描いたステンドグラスがある、講堂は1000人以上入るぐらい大きい、盛夏服が普段遣いできそうなぐらいかわいい、困った時に声をかけてくれるような優しい子がたくさんいるなど、清泉の魅力はいっぱいです!

体育祭、文化祭などの学校行事も生徒の手で運営する

●Nさん(中3)
どうしても清泉に入りたくて受験しました。急に決めた受験だったので、準備は前日の数時間しかできませんでしたが、似たような他校の過去問を解きました。実際の入試では、自分の持っているさまざまな知識を使って解くところがとても楽しかったです。今は、友達と一緒にいる時間が一番好きですが、清泉祭(文化祭)や体育祭などの行事もとても楽しいですよ。

●Sさん(中3)
清泉の2期、3期に失敗して、最後の砦がAP入試でした。過去問が1年前のものしかなかったので準備するのは難しかったですが、過去問を解いたり、過去問からどのようなものが出題されるか考察しました。最後の記述の配点が高そうだと思い、記述問題を多く練習して臨みました。私の年の問題はドラえもんが出てきたり、「0」について考えたりして、とてもユニークだったのを覚えています。4教科の内容が満遍なく出ていて、最後の記述以外は比較的問題も軽かった印象です。清泉に入る人たちはみんな個性に溢れているので、必ずどこかに気が合う人がいます。行事はとても盛り上がるし、他にはないたくさんの種類の部活があるのも清泉の魅力です。学校は綺麗に保たれているし、勉強面では先生方のサポートも手厚く、友達と競い励み合うことで勉強への向上心が高まると思います。

●Kさん(中3)
もともと公立中高一貫校が第1志望で、公立で問われる問題と形式が似ていたため受験しました。準備としては過去問を解いたり、食事中にニュースを積極的に見て、最近(当時)話題になっている時事問題などを知るようにしました。試験問題は、しっかり文章を読めば難しい知識を使わなくても解ける問題が多く、解いていて楽しかったです。解くのに時間がかかる問題もありましたが、問題数が少ないので焦らずにすみました。付属の小学校から来た人もいますが、関係なくみんな仲が良いですね。特に体育祭が楽しい。清泉祭は部活単位で行動することがほとんどですが、こちらも先輩や後輩がフレンドリーで優しく、有名な飲食店のものも食べることができるので、とても楽しいですよ。

●Cさん(中3)
1期から3期までに合格することができなかったのでAP入試を受けました。この入試のための準備は特にしませんでしたが、受けてみて、問題の難易度も問題量も、ちょうどいいと感じました。今は、友達とのおしゃべりが一番楽しいです。

●Mさん(中3)
論文が得意で、自分の得意なことが生かせる入試だと思ったので受けました。対策としては、通信教育で学習したり作文専用のワークを解いたりしていましたが、試験内容が思っていたより難しくて大変でした。今は、先輩や後輩と協力しながら行う文化祭がとても楽しいです。優しい子が多くて、居心地が良いところが清泉の魅力だと思います。

取材Memo

「他者のために生きる」ことを真摯に考える人が育つ学校
お話を伺っているなかで、「本校では、生徒に『人材』という言葉は使いたくないのです」と語った北宮先生の言葉が心に残ります。周囲に対して有用であることが前提の「人材」の前に、大元となる「人」を育てる。そこからは、同校のモットーである「神の み前に 清く 正しく 愛ふかく」が呼び覚まされます。同校が大切にする「他者のために生きる」精神は、教育によって「心」を育ててこそ実現するもの。リベラルアーツを中軸とする教育を展開する同校ですが、生徒たちのアンケートによれば、「好きな授業」の上位に常に挙がるのは「倫理」(6年間継続して実施)だそうです。授業だけでなく、何気ない日常の中でも「自分のことだけでなく、周りの人のために何ができるかを考える」よう生徒を誘う同校だからこそ、各種のボランティア活動や「AI倫理会議」「ICT委員会」など、生徒の視線で取り組む活動が主体的に運営・実施されていることは、当然といえば当然なのかもしれません。



同校は、戦国大名の北条早雲が築いた玉縄城の本丸跡に立つ。
フィールドワークで貴重な遺構を巡る生徒たち