【女子美大付属中学】に教科試験ではなく記述と面接で挑める「女子美自己表現入試」。

思考力入試

東京メトロ丸ノ内線、東高円寺駅から徒歩約8分。住宅街の中にある女子美の 創立は1915年(大正4年)。女子の理想像が「良妻賢母」だった時代に、一人の女性、一人の人間として生き、美術の力によって心豊かな毎日を生み出す社会と文化を支える人間になることを目標に女子美は創立されました。その革新的な考えのもと100年を超える長い歴史の中で、美術界、デザイン界のみならず俳優、歌手、小説家など多くの表現者を輩出してきた女子美術大学の付属中学校となる本校は、日本で唯一、世界でもまれな美大付属の中高一貫女子校です。

絵を描くのが好き、ものをつくるのが好き。

校庭にはサモトラケのニケ、エントランスにはミロのヴィーナス。パンフレットの表紙は絵筆を持った生徒たち。そしてサブパンフレットにはアーティストやデザイナーや様々な企業のクリエイティブ分野で活躍する先輩たち。普通科の学校とはいえ、美術教育を根幹にリベラルアーツを重視した女子美大付属には、絵を描くのが好き、ものをつくるのが好きな生徒だけでなく、そんな生徒を応援する美術好きな教員が集まり、同校ならではの有意義で充実した学校時間をつくっています。

「本校では美術的な学びを大切にしていますし、それを楽しむ気風があります。例えば体育行事では競技のときに身につけるものを1週間かけてつくったり、理科の課題で生徒が好きな元素記号に置き換えた「元素記号クッキー」を焼いたり、社会ではある国の観光大使になって紹介するたった5分のプレゼンの衣装づくりに何時間もかけたり。伝えることへのこだわりが高く、それを楽しむことが当たり前の学校生活です」と小島先生。

入試委員会 小島礼備先生

そんな当たり前が炸裂するのが運動会です。
「担任の先生を何かに変身させる着付けリレーや巨大な絵をパズルにした競技があるのですが、準備で先生のところに来て新聞紙で型紙をつくったり、どんな絵を描くかなど、本当に一生懸命打ち込むんです。そこにはたくさんのドラマが積み重なっていて、本番が終わると皆泣いてしまいます。そばでそれを見守ってきた教員も思わずもらい泣きしてしまうほどです」

また運動会では、応援団が競技より主役の一面も。5分間の決められた時間の応援合戦で、どんな表現を創りあげられるか、生徒たちにとって応援合戦は一つの作品。企画、ダンスの振り付け、レイアウト、選曲に全身全霊で取り組むといいます。

「苦しみながら気持ちを積み重ねて一生懸命乗り越えたという経験は生涯忘れないものです。大人になって仕事をする時にも中学生、高校生のあの時頑張ったことが必ず自分の糧になっていると感じます。学校の役割は、いわばそういう機会をたくさん与えることではないでしょうか」女子美大付属は美術大学の付属校ですが普通科の学校。美術教育を重視していますが、これは学習面においても同じアプローチだと小島先生はいいます。

「難しい問題に出会った時、いかに諦めずに対峙できるか。それは気持ちを積み重ねる美術のアプローチと同じで、これからの時代を生きていくために必要なものが美術の中に入っていると思います」

美術と学習が補完し合い、感性を鍛える学校。

そんな女子美大付属が掲げる教育目標は、「智の美(さまざまな学びを通して、深く考え、自ら問題を解決する能力を身につける)」「芸の美(夢を実現するために、専門的な美術教育を通して、確かな実技力を身につける)」「心の美(豊かな時間の中で、自分らしさを発揮し、世界の中で共生できる情操性を育む)」という3つの美を育むこと。

「本校には感性を育てることで知性が伸び、知性は感性を支えるという考えがあります。何かを見て感動した時、感性が見たものの全体をとらえたといえますが、それを描こうとするときに細かい形が見えてきます。また絵を描くときには全体の大きな枠から始め、その後細かい部分に手を入れていきます。これは学問に興味を持ち学習を深めていくのと同じ流れです。ダビンチも様々なことに興味を持ち、知性を深めて作品を高めていったように、本校で美術は学習を補完するものと考え、両方を大切に指導しています」と小島先生。

とはいえ知識や知恵と違って“教える”のではなく“育てる”という言葉遣いになる感性は、どのように授けていくのでしょうか。 「美術の先生は “感性を鍛える”という言葉を使います。中学1年生は本校に入学すると、最初に大きな花瓶に生けられた花を描くのですが、花は枯れても取り替えられることはなく、生徒は枯れゆく花のままで絵を仕上げなければなりません。そのためには“心を込めてものを観る”力が必要で、枯れてもそこに生き生きとした花のイメージを持ち続ける力が求められます。そうした想像して創造する力を鍛えていくことが感性を育てることになるのだと思います」

「女子美自己表現入試」について教えてください。

「例えば、観光大使になってクラスメイトの前でプレゼンをしたり、絵を描くときに伝えたい主題を作文してから作品づくりを行ったり。本校では、教科でも美術でも文章を書く機会がとても多いのです。そんな学校内で行っていることを入試におとし込み、教科試験だけでは測れないユニークな人材を期待してはじまったのが自己表現入試です」

3日間の入試日程の中日に行われ、記述と面接で考査される自己表現入試はどんなものかというと「記述は60分、事前にお知らせしたテーマと予告文を展開した課題を答案用紙に書いてもらいます。2024年度のテーマは『考える力・伝える力』で、予告文で考えておいてもらったことをもとにして当日に指示された問題に答える形です。表現思考力を見る入試なので、起承転結などの作文的な評価ではなく、課題に対する発想、想像力、問題解決への思考、そしてそれをどう伝えるかの工夫などが評価ポイントとなります。ただし発想は何でもいいというわけではなく、その裏づけとなる体験や思考を重視しているので、普段からいろいろなことを観て感じていつでも裏づけを引きだせる豊かな引き出しをつくっておくと良いでしょう」

また3分間の受験生のみの面接は「あなたの好きな作家は?などという質問はありません。学校にきた印象や今日のテストはどうでしたかなど、普通に小学6年生の言葉のやりとりがちゃんとできれば大丈夫です。特別な練習や服装は必要ありません」とのこと。ただお話を聞いている中で詳しく教えてもらえなかったのは、記述の解答用紙。

「最初の2回は創作文だったので縦書きの作文用紙のような解答用紙でしたが、3回目からは違っていました。毎回スタイルが同じではなく問題作問者しか知りません。また、前年度の問題が参考にならないコンセプト入試といえます」入試という舞台で解答用紙はお楽しみというところは、さすが女子美のスタイルです。

美術教育よりの取材になってしまいましたが、女子美大付属ではネイティブスピーカーによる授業や国際交流、プレゼンテーションやロジカルシンキングのプログラムなど、美術教育以外のカリキュラムも充実しています。90%以上が美術系の大学に進学しますが、社会に出てからの活躍の場はアート思考・デザイン思考を活かして多方面に及びます。そんな卒業生たちのことを知りたくなったらパンフレット「Fima」を。卒業生の今(ima)、仕事や学校での思い出が紹介されています。

教えて!学校のこと 試験のこと

「自己表現入試」を受験した生徒さんがアンケートに答えてくれました。ぜひ参考になさってください。

Q1 中学受験を考えはじめたのは何年生のいつ頃ですか?

小学5年生の春頃です。兄が中学受験していたのを見て、色々な中学の文化祭や説明会に行くようになりました。

Q2 「女子美自己表現入試」をどこで知りましたか?

私立中学合同説明会で母が知り教えてもらいました。

Q3 「女子美自己表現入試」を受験するための準備をしましたか?

私は毎日の出来事やものを見て感じたことなどを日記に書いていました。その他たくさんの人との交流の中で自分の意見を持ち、自分自身と向き合ったり、読書などで文章力をあげたりするのも良かったと思います。

Q4 なぜ「女子美自己表現入試」を選んだのですか?

学科の勉強はもちろんやっていましたが、自己表現入試が取り入れられたと聞いてとても興味を持ち、選びました。一般の受験スタイルとはかなり異なり、記述で合否が決まることにすごく驚き、面白そうだなと思いました。

Q5 入学してみてどうですか?

整った設備と専門の先生方のおかげで充実した毎日を送ることができています。絵が上手な子がたくさんいるので日々刺激をもらっています。少々課題が多く感じるときもありますが、その分一年が終わって見返すと達成感を得られて気持ちが良いです。

Q6 将来の夢はなんですか?

まだはっきりとした夢は持てていませんが、誰かの役に立てて、喜んでもらえる仕事がしたいです。

Q7 これから受験する人へのアドバイスもしくはメッセージをお願いします。

自分の考えや意見を文章にして人に伝えるために、普段から5科目に関係なく様々な知識を蓄えることが大切だと思います。Just do it.

取材Memo

ずっといたくなる、卒業したくなくなる学校
部活や学園祭や運動会の準備、自分の作品づくりと、女子美大付属の生徒には、きっといくら時間があっても足りないのでしょう。学校にはいつも長時間生徒がいるといいます。青春は一瞬一瞬が思い出の積み重ね。美術指向の伝える気持ちが強い「女子美生」の一瞬一瞬は、きっと熱く濃厚に積み重なるのでしょう。「こんな楽しい学校は休めない」と皆勤賞の生徒も多く、「卒業したくない」と皆が泣く卒業式だともお聞きしました。そんな充実した時間を過ごせる学校はなかなかないのではないでしょうか。