女子美の歴史は100年以上も前の1915年(大正4年)に遡ります。女子の理想像が良妻賢母だった時代に、一人の女性、人として、美術を軸に心豊かな毎日を生み出す社会と文化を支える人間になることを目標として創立されました。以降、革新的な教育方針のもと、美術・デザイン界はもちろん、俳優、歌手、小説家など、数多くの表現者を輩出しています。日本で唯一の美大付属の中高一貫校である女子美の人気は年々高まっているだけでなく、受験生の95%以上が女子美を第一志望としていることも特筆すべき点です。今回は、女子美の魅力と教育力、そして2日に行われる「自己表現入試」について、入試委員会の岡田洋介先生と、小島礼備先生にお話を伺いました。


女子美の教育の特徴は?
美大付属の学校とはいえ、そもそも本校は普通校ですから、美術ばかりやっているわけではなく、普通の教科もしっかりと学びます。ただそうした教科にも美術色をプラスして、美術好きの生徒たちが楽しく各教科を学べる授業を行っています。例えば国語で故事成語を学ぶ際は、絵札と意味札のオリジナルカルタを生徒が絵を描いて手作りしますし、高校の化学では、元素カードを作成します。英語も美術の世界に欠かせない専門用語を英語で学び、授業でもアートと英語を融合させたArt Englishを導入しています。
絵を描いたり、ものづくりをすることは、表現すること。表現というのは、人に何かを伝えることです。そのため本校では、中学の3年間で420時間ある美術の時間も、ただ作品を作るのではなく、自分は作品を通して何を伝えたいのかを考えてから作品づくりに入ります。具体的には絵を描く前に自分がイメージしていることを、言葉で表現するのです。普段から「文章を書くこと」を習慣化していますので、本校の生徒はすべての教科のなかで、国語力が高い傾向にあります。
行事に関しても、企画書作成やプレゼンが必須です。文化祭(女子美祭)は中高大が合同で行う一大行事で、中高ではクラスによる教室展示が行われます。しかしスペースの関係上、すべてのクラスが展示に参加できるわけではありません。そこで企画の立案とプレゼンが行われるわけですが、これは学年もクラスも関係なく、平等に評価されるため、それはもうどのクラスも必死です。一方で、企画力やプレゼン力だけでなく、それに至るまでの調整やクラスの連携も欠かせませんから、ひとつのことを成し遂げるには自分たちで何をどうすべきかを考えなくてはなりません。
これらを中高の6年間、継続して行うので、おのずと企画力、プレゼン力、協調性、コミュニケーション力が養われます。卒業して各分野で活躍している卒業生は「今も企画書やプレゼンは仕事として当たり前のように行いますが、中高時代にやっていたことと変わりません。むしろ、中高時代の方が大変でした」と言っているほどです。

なぜ、自己表現入試を始めたのでしょう
表現することが、本校の教育のベースとなっているので、それを入試にも落とし込めるのではないか、と考えたことが、自己表現入試につながっています。本校の生徒は、教員の私たちも驚くような思考力を表現してくれることがよくあります。たとえば、最終的な答えは同じでも、その答えを導き出す過程がおもしろい。そうした能力を入試においても発揮できる受験生を発掘したい、という想いがあります。

自己表現入試対策について教えてください
本校の自己表現入試は、2月2日に行われ、試験内容は記述が60分、面接が3分です。2025年の記述のテーマは、前年と同じ「考える力・伝える力」です。記述の内容については当日お伝えします。このやり方も例年通りです。どんな問題が出されるかは、問題作問者しか知りません。
2024年度の自己表現入試は、募集が約10名に対し、志願者が182名。当日は2月1日に科目型を受けて合格した受験生が抜けるので、111名が受験し、8名が合格しました。
教科型や都立などの適性検査型入試であれば、過去問対策ができますが、本校の自己表現入試には過去問もありませんし、模範解答もありません。
できる対策として、説明会などでお話しているのは、学校や塾の勉強をしっかりやること、読書をしたり、日頃からものごとの答えの根拠となる事柄や、課題解決の方法を意識しておきましょう、ということです。自己表現入試は、個性や感性で勝負、とのイメージを持つ方も多いでしょう。もちろんそれらも必要ですが、感性だけに頼っては合格には至らない設問となっています。本校では入学後も「感性を支えるのは知性である」とよく生徒に伝えています。アート=感性 だけではありません。知性と感性はどちらも大切なのです。
また、本校の中学入試において、美術系の技術を問うことはありません。ただ、美術が大好きという気持ちがあれば大丈夫です。
自己表現入試においては、毎年記述内容が異なるので、前年度の問題がまったく参考にならず、塾泣かせの説明しかできないのが正直なところです。ただ、受験生はどう対策しようと考えるのではなく目の前の勉強をしっかりやり、普段からいろいろなことを考え、当日は試験を素直な気持ちで楽しんでほしいと思っています。自己表現入試に合格して入学した生徒は、実際に試験を楽しんでいますし、入学後も、あのときの試験はこうだったねとか、あの問題の続きが気になる、と、教員に質問しに来る生徒もいます。
昨年度の卒業制作優秀賞3点「100周年記念大村文子基金女子美美術奨励賞」



自己表現入試に合格して入学した生徒さんの特長を教えてください
行事で活躍する子、プレゼンが得意な子など、人前に立つことが得意な子もいれば、普段は黙々と何かに打ち込む子など、いろいろなタイプの子がいます。共通した特徴といえば、いろいろなことを考えることが好きな子が多いような気がしますね。
受験生にメッセージをお願いします
受験生がどんなことを書いてくれるのだろう、と作問者もワクワクしながら問題を作っていますし、採点も楽しんでやっています。繰り返しになりますが、自己表現入試に関しては、特別な対策は存在しませんが、とにかく受験日までは目の前の勉強をしっかりやり、当日はリラックスして自分の力を発揮してほしいと思います。
女子美中は、絵を描いたり、ものを作ったりなど、表現することが大好きな生徒にとってはパラダイスのような学校です。うまい下手ではなく、「大好き」であること。ここが一番のポイントです。

- 取材Memo
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いつも「幸せな活気」に満ち溢れている学校
各校の受験日初日に、その学校を第一志望とする受験生が集まるのは自然な流れですが、女子美の場合は、2月1,2,3日の3日間すべての受験生の95%以上が、女子美を第一志望としています。実は本サイトのなかでも、女子美に関する記事は、ダントツのアクセス数を誇っており、それも女子美人気を裏打ちするデータといえます。「どうしても女子美に入りたい」小学生が受験し、入学後は大好きな学校で学べるわけですから、女子美にはいつも「幸せな活気」に満ち溢れています。そんな女子美には、女子美と生徒たちが大好きな先生たちがいることも特筆すべき点です。女子美は、私たち取材者にとっても本当に楽しい学校。個性豊かな生徒が集まる学校だからこそ、才能やスキルを伸ばせるだけでなく、多様性を受け入れる人間力をも育んでくれる学校であることを、訪問するたびに実感します。