【桐朋女子】の学びの基礎力を見る口頭試問試験を体験してみました。

言語表現型入試

筆記試験に止まらない新タイプ入試は、実際はどんな試験なのかわかりづらい側面があります。桐朋女子中学校ではA入試で行われている口頭試問試験のビデオをホームページで紹介していますが、今回は新タイプ入試ガイドのライターが受験体験をさせていただきました。

さて口頭試問とは、提示されたことを理解し、その理解について質疑応答が課される試験。理解を積み上げていくプロセスや、理解を自分なりに発展させる力、そしてそれを伝えるコミュニケーション力が評価軸となる試験です。

この大学入試や就職試験で行われている口頭試問を、小学生でも受けられるようにした試験が桐朋女子中学校のA入試。小学校で学んだ知識の量や解答の成否を見るのではなく、初めて学習することに積極的に興味を持ち、学んだ内容をきちんと整理・分析・判断して、質問(試問)に対し、新たな方向に広げられるか、その思考を自分の言葉で表現できるか、また間違えても粘り強く考え柔軟に答えに辿り着けるかが考査されます。A入試は入学後の学びにスムーズに入っていけるかどうかの資質を見る試験として考えられ、約50年前から行われています。

口頭試問試験はまず準備室で40分程度の授業を受け、その後に試問室に移動し、授業で学んだことについての質問に答えていきます。 準備室に入ると先生が二人。教壇にいる先生が白とブルーの課題用紙とピンクのメモ用紙を配り授業がはじまりました。今年のテーマは「発酵食品」。

「発酵に関わる微生物としては、カビ、細菌、酵母があげられます。微生物が食品を食べて分解し、残ったものが発酵食品になります」と先生。その例として牛乳からヨーグルトができる仕組みの話があり「牛乳が発酵して、ヨーグルトになるために必要な『微生物』は何ですか。微生物の名前を答えなさい」という課題1が出題されます。その後も大豆が納豆になることやしょうゆづくりの話があり、課題4まで答えていきます。課題4までは授業を聞いていれば答えられる問題で、課題5(ブルーの課題用紙)は、文章と地図を読んで、「なぜ江戸時代に千葉県でしょうゆづくりが盛んになったか」を考えて答える問題となります。課題5を書き終えたらいよいよ試問室に移動して授業で学んだことへの試問に答えます。

さてライターである私の試験結果はお知らせしませんが、受験体験を通して最も強く感じたのは、問題がとてもよく練られていること。小学生でもわかる身近なテーマを選び、最初は簡単な課題から、徐々に考えることが必要となる課題にステップアップ。試問室では「どこまで理解できているか」や「どこで間違えたのか」がわかるようになっています。 試験問題づくりについて学校にお聞きすると、問題は各教科の先生が参加した検討会議で一年かけて制作。各教科の先生が担当教科の視点から討議し精度を高めていくそうです。その中で例えば栄養素の話は小学校で習っているか、40分の授業をどう構成するか、メモ用紙はどうつくるかなど、様々な検証がなされブラッシュアップされていきます。

A入試の授業を行なっていただいた天野 彩先生(地歴公民 日本史)

緊張をほぐすように「試験はどうだった」からはじまる試問は、授業を行なった先生とは別の先生が行います。試問は理解を積み上げる力、発展させる力、それを伝える力を見る試験。試問にすぐに答えられない場合も、理解したことを忘れているのでは?とメモ用紙を見るように示唆され、解答に導いてくれます。すべての試問が終われば、あとは理解がどこまで広がったのかを話す楽しい時間となります。 A入試は「どう理解し、なぜそのように考えたか」を言葉にして答える試験ですが、上手に話す必要はありません。口下手や緊張で口が重くなっても先生が導いてくれるので心配は無用です。またA入試には国語と算数の筆記試験がありますが、小学生の日頃の勉強をきちんとしていれば大丈夫です。A入試は、授業を受けて育つ力を見る試験。塾に通っていない子も合格しています。さぁあなたも特別な準備のいらないA入試を受けてみませんか?

教えて!学校のこと 試験のこと

今年「A入試」で受験した生徒さんに試験のことをお聞きしました。

Q1 中学受験を考えはじめたのは何年生のいつ頃ですか?

勉強をはじめたのは小学5、6年生からでしょうか。小学校生活を大切にしたかったので、あまり受験は考えていませんでした。塾には通っていません。できる範囲でやってみようと思いました。

Q2 「A入試」をどこで知りどうして受けてみようと思いましたか?

親から教えてもらいオンライン説明会に参加しました。A入試はホームページにも口頭試問ビデオがあったので見ました。授業は面白い内容だったし、A入試は塾に行ってない私でも、知識の多さや問題の解き方のテクニックが必要ではないので参加できるなと思いました。

Q3 「発酵」のことはどのくらい知っていましたか?

日本には発酵食品が多くて、しょうゆとか味噌が発酵食品ということは知っていました。試問で有名な乳酸菌飲料も発酵食品だと答えたら、ちょっと驚かれました。

Q4 過去問に挑戦しましたか?

塩の問題や途上国の問題を見ました。テレビで塩をつくるドラマを見ていたり、学校で途上国への募金活動に取り組む際に調べたりしていたので、とても興味深かったです。

Q5 「A入試」のために何か準備をしましたか?

普段からニュースを見て、報道されていることに対して自分だったらどう考えるのか、ということはやっていました。そこで考える力はちょっと養われたと思います。

Q6 「A入試」を実際に受けてみた感想は?

しょうゆができるところのつながりは一応全部書いたのですが、ひとつ足りなくって、試問で先生がヒントをくれたので分かりました。あと書く時間が足りない問題もありました。

Q7 来年の受験生へのアドバイスもしくはメッセージをお願いします。

知識だけじゃないから、普段から興味を持っていたり考えていたりすれば受験できる問題だから受けやすいです。社会のことでも理科的なことでもいいので何かに興味を持つこと、そして試験は落ちついて受けることが大切です!

取材Memo

何度何度も検討されて出題にたどり着くこだわりの課題。
検討会議では「難しいことをわかりやすく」「知識としてゆがみがないように伝えること」を大切に様々な角度から討議がされるそうです。そんな討議の中では「人間にとって有益な作用を発酵、有害な作用を腐敗と説明するのはおかしい。微生物は何も人間のために発酵させているわけでない」という意見も。発酵・腐敗の解説については「微生物目線で」ということでまとまったそうですが、そんな喧々諤々があるからこそ、こだわりの良問となっているのかもしれません。