清泉女学院の算数1科型「ステムポテンシャル入試」は、算数が得意な人だけに向けた入試ではありません。文理の枠を超えた思考力を育む教育の序章です

ステムポテンシャル入試

教育モットーは「神の み前に 清く 正しく 愛ふかく」。清泉女学院は、キリスト教精神に基づき、心を育て、知性を磨く学校です。1947年の創立以来、倫理の授業や福祉活動で心を育てる「ライフオリエンテーション」を土台に、リベラルアーツ教育でアカデミックな学びを展開。ここでは、同校で実践される学びの序章と言える、「ステムポテンシャル入試」(以下、SP入試)をご紹介します。受験生の可能性を見出すSP入試のステムとは「Science」「Technology」「Engineering」「Mathematics」「Medicine」の頭文字をとったもの。算数を通して論理的思考力や、プログラミング的思考力を測る60分の試験です。「SP入試」に込める思い、そして数学の魅力について、教頭で数学科の二ッ木睦子先生に伺いました。

算数(数学)は日常生活の中にあり、実は芸術とも深く繋がっているのです

教頭の二ッ木睦子先生

「SP入試」の過去問を拝見して、御校らしいなと思いました。単なる計算問題ではなく、問題文からは受験生の考えを引き出そうとする作問意図を感じました。

「基本的に、SP入試の問題は答えだけではなく途中式も要求していますが、受験生が筋道を立てて論理的に考え、それをどういうふうに表現するのかを見たいのです。ですから、受験生の頭の中で考えた道筋を知ることができるような問題作りを心がけています。昨年の問題にも『解答用紙に途中式や考え方も記入しなさい』という指示がありますが、こういうところは本校らしさかもしれません。『条件があって、その条件に基づいて考えていくとこの答えになる』というのが大きな組み立てとしてありますが、その大枠の中で、どこをどのように問うかというのが出題者によって違ってくるのではないでしょうか。それが、学校のカラーとして出るのかもしれませんね」

言葉で表現することも含めて、「頭の動きを見せてください」という問題ですね(笑)。

「そうですね。言葉で表すにはいろいろな言い方がありますが、『自分の言葉』で書ければいいのです。答えが合っていればいいだけではなく、考え方を引き出したいなと。普通に生活していれば電車の遅延はよくあることですが、それを数式として考えてみるのが問3の速さの問題です。実生活の中で、算数や数学が活きていることが目で見てわかるものはあまりないかもしれませんが、それでも『これって算数っぽいな』と感じるような題材が多くなっているとは思います。あとは、問2のように、パズルの要素がある問題も多いですね」

※2024年度「SP入試」3より
※2024年度「SP入試」2より
(上の過去問は、同校のホームページに掲載されています)

 

女子校で「算数1科型入試」はそれほど多くありませんが、だからこそ、その意義には大きなものがありますよね。

「マスコミで『リケジョ』を取り上げたり、大学の理系学部も女子の受け入れ枠を広げていますが、一般的に見ると、保護者の中にもまだまだ『女子が理系?』という思いが少なくないと感じています。ですから算数が好きで、今の時点で将来は理系に進みたいと思っている人に、ぜひ受けてほしいと思ってこの入試を設定しました。ただ、とくに難度が高いということはなく、普通に算数の学習をしていれば十分に対応できる問題です」

教育の柱の一つに「サイエンス・ICTプログラム」があるように、御校はもともとサイエンス、科学的思考を大切にされていますが、それを表明する入試でもあると思います。

「その通りです。受験生本人も保護者も、理系を含めて視野を広げたいと望む方には、そのお手伝いをしたいと思っています。可能性を狭めるのはもったいないことですから」

教育の柱の一つである「サイエンス・ICTプログラム」では、
学びの楽しさを存分に味わうことができる

科学的思考は、御校の教育の基盤である「リベラルアーツ」にも欠かせない部分です。ちなみに、理系志望の生徒さんはどれくらいいますか?

「年度によって5割近くになることもあるのですが、だいたい3〜4割でしょうか」

ただ、御校の場合、特化したことに注力するのではなく、「リベラルアーツ」を主軸に、多様な学びを実践していますので、進路も幅広いですよね。その中でも3〜4割は理系志望だと。

「理系の中でも、昔から医療系が多いですね。本校で過ごしていく中で、人の助けとなりたいと思うようになるのだと思います。ほかには工学系や、最近増えてきたのは情報系ですね。私は数学の他に情報も教えているのですが、5年くらい前には志望者がほとんどいなかったのが、このところとても増えています」

ところで、話は変わりますが、先生はなぜ数学に惹かれたのですか。

「私ですか(笑)? 私は物事を論理的に考えるのが好きだったので、理由がきちんとあって、それが目に見える式としてわかり、次の段階に進めることが楽しかったのです。実は、小学校までの算数はそれほど好きではなかったのですが、数学はすごく好きになって。今の私の感覚で言えば、算数はまだボヤ〜ンとしているのですが、数学になるとそれがカチッと形になるというか。そこに惹かれたのだと思います」

……その感覚、私には理解が難しいです(笑)。

「抽象的な言い方でわかりにくいですよね。私は関数が好きなのですが、とにかく解くのが楽しかったんです。例えば「y=ax+b」で、xに何か入れたらyが出るというのが、自販機にお金を入れたらジュースが出てくるのと同じ感覚で(笑)」

それは、おもしろいです(笑)。

「そして、二次関数、三次関数、四次関数と広がっていくのがまたおもしろかったですね」

こういうお話を伺うと、算数や数学はもちろんのこと、「学びっておもしろい」と思わされます。

「私も私立のミッション校出身なのですが、私が数学の教員になった理由の一つも、中高の時にお世話になった先生が学問のおもしろさを教えてくれたからです。ですから、入試でも解いていて楽しくなるような問題を出したいなと思っています。ただ、算数の素材というのはそれほど広げられないので、その限られた中で特徴を出すというのは難しいですが(笑)」

先生ご自身、算数はあまり好きではなかったけれど、数学は好きになったとおっしゃいました。小学校までの算数と、中高以降の数学では何が違うのでしょうか。

「例えば、中高で学ぶ方程式などは中学入試問題では出題できないのですが、xを使わずに□(四角)を使って解くというのは塾などでやっているわけです。正直、やっていることはそれほど変わらないと思うのですが、入試でも数学の問題を噛み砕いて小学生バージョンに落とし込むことはありますので、使える道具が多いか少ないかの違いと言えるのかもしれませんね」

「算数1科型入試」と聞くと、ハードルが高く感じる受験生もいると思います。でも、算数が得意ではない受験生にとっては関係のない入試だと思われるのは、もったいないように思うのですが。

「たしかに、『算数1科』と聞くだけで、関係ないと思う人もいると思います。ですから、まずは過去問を見てみてほしいですね。そうすれば、実は普段学校や塾で勉強していることと同じだと思えると思います。『あら、いけるじゃん』と(笑)。次のステップとしては、やはり途中式を書くことを大事にしている入試ですので、普段から数式を1行ずつきちんと書いて、答えに行き着くという練習をしてもらえるといいですね。塾などでも計算練習は毎日しなさいと言われることが多いですが、本当に継続は力なりで、そこを嫌がらずにできる受験生なら、この入試問題に十分対応できると思います」

特段高いレベルを求めているわけではなく、普段からコツコツ勉強していれば大丈夫という理解でよいですか?

「そうですね。奇を衒う問題ではありませんので、手はつけやすいと思います。どれでもいいので、まずは過去問を1問やってみてください」

過去問を拝見していても、素材として「じゃんけん」があったり、「あ、楽しそう」と思えます。それに、「SP入試」で入学した受験生が、御校の多様な学びを経て、結果、文系に進んでもおもしろいですね。

「普通にあり得ることです(笑)。算数1科型の『SP入試』で入った生徒は、文系・理系どちらにでも進めると思います。大学受験でしたら、数学1科となればハードルは高くなりますが、算数は文章をきちんと読めるとか、文系的な思考がより多く入ってきますので。文・理の適性はさほど関係なく、あくまで本校での6年間の学びの入り口としての入試と思っていただければと思います」

中1〜高1では、自然のリアルを実感する野外観察も実施

サイエンスといえば、算数とか理科を思いがちですが、サイエンスの中軸となる「論理的思考力」とは「物事の読解力」と言えるのでしょうか。

「そうですね。あとは、未解決問題を解いていくために必要な力だと思います。答えを出すこと以上に、答えを出そうとするプロセスそのものが大事で、それは社会に出てからも活きることですね。生徒たちによく言うのですが、『お料理が好きな人は、数学ができるはずだよ』と。『カレーライスを一人で作ってごらん』と言われたら、まず何をする? と聞くと、『ジャガイモを洗って……』とか『ルーを探すかな』とか言うのですが、『いやいや、もっと最初にやることがあるでしょ。まずはお米を研いで、一つひとつの作業にかかる時間をいかに効率よくやるかと順番を考えなくちゃ。そこでは数学的なセンスを問われているんだよ』と。効率よく時間を組み立てることにも、それこそ数学的センスが必要なのです」

なるほど。「なぜ、数学を勉強しなくちゃいけないの?」と思っていても、本当はすべて生活と繋がっているのだと。

「そうです。二次関数は生活の中のどこに使われているかを説明するのは難しいですが、放物線はいろいろなところにあるんですよ。どこから光を当てても光が焦点に集まるという楕円の特質を利用したものには、パラボラアンテナや医療機器などがあります。算数や数学を生活の中で実際に目にできるものは多くはないのですが、あらゆるところで使われているのです。いずれは、数学でもフィールドワークをしたいですね。私は大学生の時に、教授から『お茶碗を作りに行こう』と言われて、なぜ数学科でお茶碗を? と思ったのですが、『お茶碗の一番きれいな形というのは、放物線のこの式でできているんだよ。それを実際に作ってみよう』と。美的な感覚と数学は、けっこうコネクションがあるのです」

おもしろい! どういうことでしょうか?

「有名なところで言えば、ミロのヴィーナスとかダ・ヴィンチのモナリザには黄金比が使われています。少し前に受験生を対象に体験授業をしたのですが、『黄金比とか白銀比というのがあってね、人が見て美しいなと思うものはそういう比で作られていることが多いんだよ』という話をしました。芸能人でカッコいいと思う人がいたら、顔のつくりがその比になっているのかもしれないと(笑)。トランプとかクレジットカードも、多くは縦横比が黄金比になっています。そういえば、私の中高時代の同級生のお姉さんは『数学オリンピック』で女性で初めて金賞を取った方なのですが、今は数学者でありながらジャズピアニストとしても活躍しています。また、本校の音楽部の指揮者は生物の教員ですし、音楽科の教員は情報の教員でもあります。美術と同じく、音楽も科学と繋がっているのです」

やっぱり、何を見せて、何を語ってくださるかで、その学問への入り方がまったく違ってきますね。先生には数学のおもしろさを教えていただいた気がします。そのおもしろさを味わう第一歩として、受験生のみなさんには、ぜひ「SP入試」に注目していただきたいと思います。

 


■「ステムポテンシャル(SP)入試」募集要項

●試験日程:2025年2月3日(月)14:30〜15:30
●募集定員:10名
●試験科目:算数1科目(60分・100点)

 「SP入試」は2021年に設置された、数学的思考とプログラミング的思考を問う入試です。また、公立中高一貫校との併願者が多いポテンシャル入試には、総合力を測る「AP(アカデミックポテンシャル)入試」もありますので、別記事をご覧ください。

同校の教育の土台にあるのは、愛と平和を希求するキリスト教の教え

SP入試で入学した先輩たちからのメッセージです!

●Aさん(中1)
私は算数が得意だったので、算数1科目の「SP入試」を受けました。過去問もひと通りやりましたが、実際の入試問題は馴染みのない形式でした。でも、思わず解きたくなるような問題もあって、緊張はしましたが、楽しみながら解くことができました。合格したと聞いた時は、とても嬉しくて胸が踊りました。清泉女学院は、同級生や先輩方がみんな優しいのでとても親しみやすいです。また授業は、先生がおもしろく説明してくださるので、いつの間にか時間が経ってしまう感じです。今は、勉強や部活なども含めて、充実した学校生活を送っています!

●Bさん(中1)
私が「SP入試」を受けようと思った理由は、算数が得意だったからです。「SP入試」は塾などで習った問題のひねったバージョンといった感じの問題だったので、基本がしっかりしていれば焦る必要はないと思います。私は1月中に前年度の過去問を解いた時、最終問題が普段の問題集などには出てこないようなもので正直焦りましたが、その代わり解けた時には達成感を感じることができました。また、試験時間が60分と普通の試験よりも長いため、落ち着いて解けたと思います。そして、入学した後には充実した日々が待っていました。新入生歓迎会では先輩たちが心から歓迎してくださり、今はダンス部に所属して楽しい日々を送っています。

●Cさん(中2)
私は算数が得意だったこと、併願しやすい日程だったことから「SP入試」を受験しました。算数として特別な対策はしませんでしたが、「SP入試」は問題の形式が少し変わっているので、過去問を解いて慣れておきました。印象に残っているのは動物園での行動を計画する問題で、算数の問題としては見たことがない形式でした。でも、大事なのは基礎をしっかり固めることです。そして、問題文を慌てずに読めば必ず解けると思います! 入学した時は清泉小学校から入ってきた子もいて、初めは仲良くなれるか心配だったのですが、すぐに打ち解けて、今では大切な友達になりました。

取材Memo

どの学びも単体ではなく、すべてに繋がっている。そのことを再認識できました
「算数は苦手」「算数を勉強して何の役に立つの?」 と思っている人は少なからずいると思います。でも、算数(数学)と音楽や絵画は密接に繋がっているのだと知れば、ちょっとワクワクしませんか? 実は、すべての学びは繋がっているのです。二ッ木教頭のお話を伺いながら、その思いを強くしました。清泉女学院がキリスト教の教えと共に教育の主軸に据える「リベラルアーツ」とは教養諸学のことですが、その由来は中世ヨーロッパの「自由七科」に遡ります。自由七科とは、言語に関する「文法」「修辞学」「弁証学」、数に関連する「算術」「幾何学」「音楽」「天文学」のこと。今回、二ッ木教頭にはテーマである「SP入試」とともに数学の魅力を語っていただきましたが、そのお話のコアはすべて、同校で展開される多様な学びの風景です。「SP入試」は、教養諸学を身につけるための入り口の一つなのです。算数がそれほど得意でなくても、ぜひ目に止めてみてください。



年に2回実施される「校内模擬国連」も同校の特色の一つ。
これは教科の枠を超えて多角的・能動的に学ぶ中で、
グローバルな視点で物事を考える力を身につけ、
国際平和や地球環境のために行動する積極性を培うプログラムですが、
同校は校外で行われる大会にも積極的に参加。
2023年度にはタイ・バンコクで開催された世界大会で
「ベストポジションペーパー賞」を受賞しました。