2021年度から始まったリスニング入試は、国語と算数の基礎学力テストとスピーカーから流れてくる音声を聴いて解答するリスニング問題で構成されている入試です。100点中70点配点のリスニング問題のサンプル問題が公開されているので、ぜひ試してみて欲しいのですが、取材者の場合、ん?これは何を意図した試験なの?という印象を持ちました。しかしながら今回、作問された先生方にお話に聞いてみると、そこには膨大な時間がかけられ、並々ならぬ考えと想いが込められおり、ぜひそれを伝えなければと思った次第です。さて、どこまでお伝えできるか取材者の大きな挑戦です。
「リスニング入試」をはじめられた背景を教えてください。
「小学校4年生から塾に行って、やりたいことをガマンして受験のために多くの時間を使ってしまう。そして受験勉強で身につけたテクニックや丸暗記した知識の差で合否が決まってしまう。それを否定するわけではありませんが、スポーツや習い事など好きなことを一生懸命やっていた子どもたちを迎え入れる入試があってもいいのではないか。小学校で人の話をきちんと聴いて自分の頭で考えられる探究心のある子は多摩大聖ヶ丘で伸ばしてあげられる。本校では一般や適性型入試も行っていますので、いろいろ討議した末に聴く力に着目したリスニング入試を設けました」
「リスニング入試」は、どのように行われるのでしょうか。
「国語と算数の基礎学力をみる試験(各20分)があります。国語は示された文章を原稿用紙に書き写す問題。算数は計算問題と体積や角度などを求める問題です。その後に教室のスピーカーから流れる音声を聞いて問いに答えてもらうのがリスニング問題です。40分間で大問が4題出題され、それぞれに小問が2題程度あります。聴きながらメモをとっても構いません。サンプル問題を公開していますので聴いてもらえばイメージがつかめると思います」
「リスニング入試」の主旨はどんなところにあるのでしょう?
「今はSNSやYouTube等で情報が流され続けている時代です。そんな時代を生きていくこれからの子どもたちにとって、情報を聴いて自分に必要な情報を掴み取る力は、色々なことのスタートラインとなるとても大切な力です。例えばホームルームで連絡事項を生徒にメモを取らせても一人ひとり違います。メモが取れない子、メモをもとに保護者に正しく伝えられた子、聞いたことから自分は明日までに何をすべきかを考えてメモをとる子もいます。メモ一つをとってもそこには聴く力が現れており、聴く力はとても大切な力なのです。リスニング問題を作問する際、教師間で何度も話し合ったのは、聴く力とは単に集中力ではない、どう情報を掴み取ることができるか。そしてそれをコミュニケーションのために再構成できるか、それを問う問題であるべきということでした」
聴く力は、どうすれば身につくのでしょう?
「普段からニュースや人の話をきいた時にメモをしたり、自分で何を考えるかを書いたりすることが大切ですが、いつもお伝えしているのは、家でたくさんおしゃべりをしてくださいということです。会話は相手が言っていることを聴いては戻すキャッチボール。相手が何を言っているのか、なぜそういうのか、心で聴く力がないと会話が続きません。ゲームをしながらうなずかれても会話が成立しないように、顔を見て話すおしゃべりは聴く力の基本なのです。聴く力と言っていますが、おしゃべりからでも身につく聴く力は、想像力や判断力や表現力などが含まれた人間の原点であり、そこから人間力がはじまっていく、色々なことが含まれたものなのです」
“人の話を聴く”という一見当たり前のことの中に、大切な能力や資質が現れるということ。そして多摩大聖ヶ丘では、その能力や資質を伸ばしたいということからリスニング入試という入口を設けたということ。また作問では、「この問題で何を問い、どんなメッセージを伝えることができるのか」「この問題は多摩大聖ヶ丘が求めることに合致しているのか」など、先生方が熱い討議を繰り返し練り上げているという舞台裏とともに、リスニング入試に込めた並々ならぬ考えや想いが伝わってくる取材となりました。
- 取材Memo
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あったかくて、人と人がつながる学校
実は佐野先生は、芦村先生の教え子。佐野先生は母校の多摩大聖ヶ丘で教壇に立っていらっしゃいます。生徒としても先生としても多摩大聖ヶ丘を知る佐野先生に多摩大聖ヶ丘の魅力を尋ねると「人があったかくて、人と人がつながれる学校」。12歳からの成長や失敗を先生が全部見ててくれ、卒業生の時は卒業生として向き合ってヒントをくれ、教師になった今も育てようとしてくれている、本当の親以上の存在だといいます。前回の取材でお世話になった出岡 由宇先生も卒業生。小さな学校、多摩大聖ヶ丘は、時を超えて垣根を越えて人と人をつなぐ学校なのかもしれません。