桐朋女子中・高等学校は、定期試験や点数制の通知表のない学校。「テストは判決ではない。レントゲンである」とは、約26年にわたって校長を務めた第6代校⻑の⽣江義男氏の言葉。定期試験は1969年に廃止され、通知表は1970年に廃止、成績の通知は教科担当者がホームルーム担任に宛てた評価とコメントをもとに面談で行われます。
そんな桐朋女子中・高等学校では、新タイプ入試が話題になる前から、口頭試問によるA入試(https://s-type.jp/2464/)を行っており、今回のCreative English入試もその流れを汲むものとなっています。
Creative English入試について聞く前に、桐朋女子の魅力から今関 光枝先生にお聞きしました。
桐朋女子の魅力はどんなところにあるとお思いでしょうか
「生徒と教員の仲が近いので、一人ひとりの生徒をしっかりとみて、その子のいいところを伸ばすことができます。最初は教員が引き出すのですが、高校2、3年生になると生徒同士がお互いにいいところを認め合って切磋琢磨して成長していくところが私は好きです」
一人ひとりをしっかり成長させるポイントは?
「大きな行事だけでなく日々のクラスの活動の中にも活躍する場があり、生徒が皆の前で、話をしたり発表する機会がたくさんあります。自分が主役になる一つ一つの体験が、うまくいった時には成功体験として自己肯定感を高めます。失敗しても次の機会にまた少しうまくいけばよいと教員は温かく長い目で見守ります。とても大切なことだと思っています」
「この子にはこういうことばで話した方が通じる」「この子の力を今伸ばすにはこういうことばで声掛け」と、生徒は一人ひとり違うので、教員はそれを考えてことばを選んできめ細かく声掛けを行っているといいます。
成長には桐朋女子が大切にされている「ことばの力」も重要?
「自分がやりたいことを説明する時も、論理的に考えて、それを言語化できなければ相手に伝えることはできません。まずことばで伝えて、心情的な部分も理解して思い計ることが大切です。A入試やCreative English入試で口頭試問を行なっているのも、本校がことばの力をとても大切にしているからです」
口頭試問は、テーマに沿って提示された内容を理解し、その理解について質疑応答が課される試験。理解を積み上げていくプロセスや、学んだことを自分なりに発展させる力、そしてそれを伝えるコミュニケーション力が評価軸となる試験です。
英語の口頭試問「Creative English入試」の実際はどんな流れ?
「課題準備室(30分)でReading・Listening・Writingを、別室(インタビュールーム)でSpeakingの4技能を問う試験です。課題は日常生活にありそうなテーマが展開されていくので馴染みやすいものになっています。まず課題準備室に入ると課題用紙が配られます。テーマの状況設定や問いが書かれているので、それに対して回答します。次に音声が流され、音声を補助するスライドも映されますので、その内容についての質問に回答します。最後にこれまでに見聞きしたことをもとに40~50語程度のエッセイを英語で書き、課題準備室での課題は終わりです。次に別室のインタビュールームに移動し、先生からの試問に英語で答えます。
2023年度の課題は、ウェブサイトを見ながら海外から来た友達と公園をどのように楽しむかをテーマに話が展開し、『公園のそれぞれのエリアで何をしたのか』『海外の人にもっとこの公園のことを理解してもらうために催したいイベントは?』など、これまでに読んだり聞いたりした情報をもとに回答する試験でした。また例えば『自分の住んでいる町で公園や図書館、映画館などの施設はあるか』『今までに行った場所で印象に残っている所はどこで、そこで誰と何をしたか』など、少し発展的な問いに自分の考えを加えて回答してもらいました」
口頭試問をベースとしたCreative English入試は、「新しいことに興味を示し、学んだことを生かして、質問に応じて適切な英語で答えられるか」「自分の考えを英語で積極的に表現しようとしているか」「『読み』『書く』『話す』『聞く』の英語の4つの技能をバランスよく持っているか」という部分を見るテストだといいます。インタビュールームでの口頭試問は基本的にオールイングリッシュで行われます。少し緊張するかもしれませんが試験官はネイティブの先生ではなく日本人の先生がリラックスした雰囲気づくりをして行うため、ことばに詰まった時や間違った時は助け舟を出してくれるので安心です。
またそんなCreative English入試で合格した生徒には、より実践的に英語が学べる「英語アドバンストコース」が用意されているといいます。どんなコースなのかお聞きしました。
「英語アドバンストコース」は、どんなコースなのでしょうか?
「帰国生やCreative English入試で入学してきた生徒、入学時に英検3級以上を取得している生徒等が、英語力を伸ばすために学んでいるコースです。(入学後に他のコースでも学年ごとに設定した英検の規定級を取得すれば受講可)教材は、ハイレベルな英語学習者向けの「New Treasure」を使用し、教材で学んだ内容をすぐにアウトプットすることを重視して、4技能をバランスよく学び、身につけられるコースです。帰国生には、週に1度、外国人専任講師が担当する、帰国生特別授業を行っています」
Creative English入試に英語力はどの程度が基準となるのかをお聞きしたところ、海外で生活したことがある帰国生にとってCreative English入試は、ハードルは高くなく楽しんで受験できるようで、国内生にとっては英検3級前提にしては、やや難しいという声があるといいます。英語1教科で受験できるCreative English入試から英語アドバンストコースという流れ。ぜひ掴みたいものですが、今関先生によれば、入試ではエッセイがキーポイントになるといいます。小学生で読む聞く英語に慣れ親しんでいても、エッセイは、自分の考えがなければ書けないもの。普段から英語で自分の考えを書く練習をしておくといいというアドバイスをいただきました。
「Creative English入試」は、どんな受験生に向けたものでしょうか?
「入試の名称がCreative Englishとなっているのを不思議に思う方もいるかもしれません。自分の頭の中でひらめいた考えは、それがどんなに独創的なものであっても、そのままでは他人には伝わりません。ことばを用いてそれを発信してはじめて、それは理解され、その独自性も認められるのです。将来社会に出て自分の独創性(クリエイティビティ)を発揮するためには、それを伝える道具(ツール)として確かな言語運用能力が必要で、現代のグローバル社会では、そのような英語力を身に着けることが非常に重要になるのです。入口は英語が好き、英語に親しんでいた、でかまいません。英語1教科で受験できる入試はあまりないと思いますので、英語に意識が高い方は、ぜひ挑戦してみてください」
教えて!学校のこと 試験のこと
「Creative English入試」を受験したM.Tさん(右:中学1年生)とS.Nさん(左:中学3年生)にお話を聞きしました。
Q1 桐朋女子を選んだ理由は?
M.Tさん:「美術専門の学校を考えていたのですが、夢を決めてしまうのはどうかな、もっといろいろな経験をしてからでいいかなと思っていた時に、父が桐朋女子を見つけてくれました。何度か学校に行って、美術室を見たり、先生と話しているうちに、個性を尊重してくれる、自分に合う学校だなと思い選びました」
S.Nさん:「家が近いので学校のことは知っていて、学校説明会に参加して決めました」
Q2 受験したのは「Creative English入試」だけでしたか?
S.Nさん:「私は2科のA入試も受け、午後にCreative English入試を受けました。印象としては、設問は英検に似ていたので、そこで自分の力が測れると思いました。ただ英語は好きですが、英語は習い事レベルで、海外に行ったり英語だけの環境にいたことはないので、どちらかといえばA入試が本命でした」
M.Tさん:「私も午前にA入試を受け、午後にCreative English入試を受けました。英語は3歳から従兄弟のお母さんの英会話スクールに通っていたのですが遠かったので、小学校では米軍の海外の先生に習っていました。国語や算数は苦手なので、私はCreative English入試が本命でした」
Q3 英語のどこが好きですか?
S.Nさん:「最初は、外国の人と話せるようになりたいという純粋な気持ちではじめましたが、今は語順が違ったり、表現が違ったり、日本語とは違う言語しての英語に興味があります」
M.Tさん:「先ほど話した海外の先生も美術が好きで、一緒に美術の話をするのが楽しかったです。英語ができると国が違う、文化が違う人と話せるので、そこがいいところだと思います」
Q4 「Creative English入試」を受験した印象は?
S.Nさん:「Speakingのテーマが、『空き時間になにをするか?』だったと思うのですが、自分的にはあまり上手くコミュニケーションが取れなくって、緊張しましたし、後から『こういえばよかった』『こういう喋り方もあったな』と思いました。どちらかといえば、読む書くの方の勉強をしていたので、Reading・Listening・Writingの方の難しさは感じませんでした」
M.Tさん:「Readingは英検で勉強していたのでスムーズにできました。Listeningは得意だったので問題なかったのですが、英会話中心にやっていたので、Writingは、親にもアドバイスをもらって対策をした通りに書きました。Speakingは、緊張しすぎてことばが出てこなかったので、ちょっと事実とは違うことを答えてしまいました」
Q5 「Creative English入試」は難しかったですか?
M.Tさん:「英検の準2級を持っているので問題は簡単だったと思うのですが、当日は緊張したので、問題がなかなか頭に入ってこなくて、終わった時に間違ったところに気づいて、受かったかどうか心配になりました」
Q6 来年の受験生へのアドバイスもしくはメッセージをお願いします。
S.Nさん:「Creative English入試は、英検3級程度といわれていますが、問題の量的には少ないので、落ち着いてじっくり時間をかけて解けば大丈夫です。また過去問を何回も練習することは大切だと思います」
M.Tさん:「私の失敗談からですが、Writing対策のために、知ってる英単語の数を増やしておくことと、文章を書く練習をしておくと良いと思います。文章は何をどう書くかなので、英語力だけではありませんので」
- 取材Memo
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自分自身の進路を切り拓き、歩みを進める桐朋生。
社会福祉法人の理事長、Jリーグのチェアマン匿名外交担当、国連職員、大学院教授、写真家・映画監督、アナウンサー・DJ、CMディレクター、アナウンサー、舞踊家、作家など、同校の卒業生の進路は多彩。先輩の講演や校内での大学説明会や個人面談など進路についての手厚いサポートが、進路を見つける後押しとなっているのはもちろんですが、そこには「ことばの力」を大切にする学校生活の中で磨かれた、“自分がやりたいことを言語化して伝える”力が大きく関わっているのではないかと思います。