充実した教育施設「サイエンスアイランド」がオープンして丸14年。ちょうどその頃聞こえ始めたのが「リケジョ」という言葉です。同校が本格的にサイエンス教育をスタートさせた頃は、理系を目指す女子がまだまだ少数派だったからです。でも、今ではこの言葉が使われることはほとんどありません。「総合知の育成」「志の教育」を掲げ、基礎学力をしっかりと身につけるとともに「サイエンティストの育成」を目指す同校ですが、それは理系に特化した意味ではなく、「論理的思考力をもって探究する人」を指します。2026年度入試で設置2年目を迎える「理数探究入試」は同校が展開するサイエンス教育の入り口になりますが、定員20名のところに2025年度入試では、実受験者数143名、合格者数27名と、先生方の予想をも超える大人気となりました。理数探究入試について、そして数学や理科の学びに限らない「サイエンスマインド」の育成について、高校3年学年部長で数学科主任の小沼治美先生と、サイエンス教育部副部長で理科主任の藤村文美先生にお話を伺いました。
課題に素直に向き合い、粘り強く考える。入試も入学した後も、その姿勢が最も大事です

「理数探究入試」では、算数と理科の問題が出題されますが、作問にあたり、それぞれどのような力を求めていらっしゃるのでしょうか。また、両教科で何らかの調整を図られているのでしょうか。
小沼先生:出題に関しては、細かい調整はしていないですね。それぞれの教科で、見たい力を見させていただいているという感じです。算数の場合は「考える力」ですね。一般入試での受験生の多くは、通塾して受験スキルを身につけていきます。もちろん、その力も大事ではありますが、それとは別に初めて知ったことに対してどう考えを進めていくのかを見たいのです。自分が培ってきたものを引っ張り出し、新たなものと繋ぎ合わせていくことができる受験生もいるはずだという思いを温めていましたので、ようやく筋道を立てて論理的に考える受験生と出会える入試を実現できた感じです。
藤村先生:以前の「探究サイエンス入試」での理科は、受験生に実験のスキル的なものを求めるものでした。でも、この「理数探究入試」は、理科は身の回りにいくらでもあるのだということを切り口に読解力も求めるものです。素直に問題文を読み込んでいき、問いに対して、初見の事柄と自分の中にある知識と繋ぎ合わせて表現するという力を見たいと思っています。理科の問題として、入り口はそれほど難しいものではありませんが、問題文の中からヒントを見つけようとしたり、「これは知らないけれど、考えてみよう」という粘り強さを見たいのです。
小沼先生:算数も同じで、やはり考えぬく粘り強さがほしいです。算数はテクニック的なことを覚えると点数化はしやすいかもしれませんが、中学に入学した後は、自分の考えを繋ぎ合わせていくことがさらに大事になりますので、最後まで粘り強く取り組むことが重要です。それが数学科でも理科でも大事にしていきたいところですので、とくに両教科で打ち合わせをしなくても、自然と同じ方向性になっているのではないでしょうか。
藤村先生:答えのわからない問いに対して、「自分はこう考える」と表現することが大事なのです。問題文がこういう文脈だから、こういう答えを求められているのだろうと読み取りつつも、きちんと自分の考えを述べられているかどうかを重視しています。
小沼先生:算数でも理科でも、「なぜ?」と思える力が解く力になります。入試ではスピード感も大切かもしれませんが、じっくり考えることができる受験生に向いている入試と言えるかもしれません。この入試を受けた生徒数人から、入学後に「問題を解いていて、楽しかった」と言われた時は嬉しかったですね。

大問2題構成の2⃣より

大問2題構成の2⃣より
(上の算数と理科の問題は、同校のホームページに掲載されています)
受験生に、読解力と表現する(書く)力を求めていることは、解答用紙の記述欄の大きさからもわかります。
小沼先生:この理数探究入試では、「なぜだろう?」と考えることが習慣化されている受験生のほうが向いていると思います。問題文をよく読めばヒントが隠れていますので、よく読み、よく考えてほしいですね。
藤村先生:本校のA入試とB入試では残念な結果だったけれど、粘り強くこの理数探究入試に挑んで合格した生徒もいました。受験生のタイプもいろいろですが、A・B入試の時に「もうちょっと時間があれば」といった、じっくり考えるタイプの受験生には合っていたのかもしれませんね。
小沼先生:スピード勝負ではなく、じっくり考える。実際、「小学生でも、ここまで書けるのか!」と驚かされた答案もあり、採点しながら感激してしまいました。
実際に解いてはいないのですが、理科の問題を拝見した時、設問が繋がって物語になっているように感じ、興味をそそられました。
藤村先生:そうなんです!試験が終わってからも「この後、どうなっていくんだろう?」と思ってほしいのです。家に帰って、保護者の方にも聞いてみてほしいなあと。いわゆる受験テクニックとは真逆で、この部分を重点的に読めばだいたい問題の意図がわかるということはなく、素直に順を追っていかないと読み解けないように作問しています。私たち教員も日常生活の中でアンテナを張って、次の入試ではどういう物語にしようかと常に考えています。普段の授業でも同じです。
小沼先生:高校になると受験指導も入ってきますが、中学ではどの教科もそのような感じで授業をしていますね。生徒の興味・関心を引くように、さらには、すべての教科の学びは繋がっているのだと意識してもらえるようにしています。

豊富で多彩な学びと向き合い、楽しむ日々を送っている
入試問題の作問には、日頃の先生方の思いとそれを具現化するための熱量が込められているのですね。
小沼先生:作問にあたっては、教科内で激論です。算数・理科は各教科で作問しますが、たまたま作業する場がかち合うことがあると、「ああ、熱くなるのはどの教科も一緒ね」と。ですから、受験生に入試問題を楽しいと言ってもらえた時は、激論した甲斐があったなと思いました。
藤村先生:2年前まで行っていた「探究サイエンス入試」での話ですが、A入試ですでに受かっているのに「受けてみたいです。受けてもいいですか」という受験生がいて、その時も感動しました。
御校の空気感が伝わるとともに、学びの風景が目に浮かぶお話ですね。ところで、合格された受験生には入学前、2月のオリエンテーションの時に課題を出されるそうですが、その意図と内容を教えてください。
小沼先生:入学前の課題は、理数探究入試で合格した生徒だけではなく、どの入試を受けた生徒にも出しています。5教科から「4月までに取り組んでおいてください」という形で。ただし、今回は初めて「理数探究入試を受けた人は、プラスでこれもやってね」と追加課題を出しました。
藤村先生:理科では実験に関することだったので、生徒たちにとっては楽しいことにチャレンジしてみるという感覚で、「課題が増えた」という印象はなかったと思います。一般の生徒には、「身近にある理科にまつわる疑問をまとめてB4の紙でポスターを作りましょう」と伝えたのですが、理数探究入試を受けた生徒には、それに加えて「実験をしてみてください」と。実際に手を動かす、頭を動かすことで、とてもおもしろいものがたくさん出てきました。例えば、飼っている犬に、お母さんが「おいで」と言う時と、自分が「おいで」と言う時では駆け寄ってくる速度が違い、私の時は遅いと気づいた生徒がいます。でも、おやつを見せると少し速くなる。そこで、さまざまに実験をしてみたわけです。その発想とか、実際に数字を出して比べてみようとか、話が広がっていくところがとてもおもしろかったですね。
小沼先生:数学科では、まず算数もしくは数学に関連する本を1冊読んでみましょうと。その中で自分が気になった部分をテーマとし、調べたり実験したりして、B4くらいの紙にポスターのようにまとめてきてくださいという課題を出しました。すると、「蜂の巣はなぜ六角形なのか」とか「バーコードの仕組み」、「フラクタルアート」について調べたり、なかには「サンタクロースの人数」を考察した生徒もいました。世界中の子どもたちにプレゼントを配るには、いったい何人必要なのかと。せっかくですので、5月に理数探究入試を受けた生徒だけを集めて発表会をしたのです。土曜日に2時間ほど時間を設けて、持ち時間は1人3分、発表の仕方は自由にして。できるだけ教員にも参加してもらい、質疑応答もしたのですが、みんなプレゼンがとても上手で「素晴らしい!」と。
藤村先生:理科では発表会ではなく、最初の何回かの授業でグループワークを行って自分が取り組んだものを発表し合いました。コミュニケーションをとることで、友達作りの時間にもなったようです。

ここからも施設・設備の充実ぶりがわかる
生徒さん方が目をキラキラさせている様子が浮かびますが、入学して半年以上が経ちました。その後のご様子はいかがですか。
小沼先生:理数探究入試で合格した生徒たちが主軸となって「科学コンテスト」に参加しようと、予備授業のために夏休みに集まったのですが、そこでも先輩たちがいても臆することなく次々に積極的に質問するなど、とても意欲的でしたね。
藤村先生:実験の練習をさせた時、「なぜこうするの?」と聞くと、ちゃんと理屈を言うのです。「ここに重りをつけたら重心が変わるので、きっと飛ぶと思ったから」と。
小沼先生:会話の中に、必ず論理性が潜んでいるんです。
そのような生徒さんは、もともと頭が良いからではないかと、実は敷居が高いのではないかと少々心配になりましたが、探究心(好奇心)と素直さがあれば、御校の教育の中で、どんどん伸びていくことができるわけですね。
藤村先生:気になることは放っておけないという、探究心が強いのだと思います。そして、素直さも大きいですね。
小沼先生:数学科で何か課題を与えても、「なぜだろう?」を起点に考えることが身についていますので、視点が深いところに行きますね。まだ中1ですから、今後がとても楽しみです。

ここでは課題探究活動に必要となるスキルを身につけるため、
観察・実験・実習などを実施している
■より高い場所から、先にある風景を見渡すことができるように。
校内外での学びは全方位に及んでいます
御校の教育を表すキーワードには「総合知の育成」や「志の教育」がありますが、先生方のお話からは、全方位に及ぶ御校の教育風景が見えてきます。サイエンス教育もその一つで、すべてが連関しているのですね。
小沼先生:そうですね。教員も連関させていくような動き方をしていると思います。
藤村先生:サイエンスを学ぶのは理科・数学だけではなく、情報・技術家庭科に芸術科、なんでもありですから。
小沼先生:私たちは「サイエンスマインド」と言っているのですが、生徒たちにも、人文系、社会系、科学系、すべてにおいて「サイエンスマインド」は必要だと伝えています。
そういえば、サイエンスプログラムの一つに、中3の社会科:倫理的・法的・社会的課題の意の「ELSI(科学倫理)」がありますが、これはどのようなものなのでしょうか。
藤村先生:「できる・できない」と「やって良い・悪い」は違う、ということを学びます。例えば「命」をテーマに考える時、DNAの組み換えはスキル的にはできるけれど、それは倫理的に許されるものなのかなどを、正解がない中で考えていくのです。
小沼先生:これも、生徒たちの心にとても残る授業のようですね。このように物事を多面的に見る機会が増えてきた裏側には、高大連携もあると思います。このELSIの授業で学んだことも、さらに大学の先生の授業を聞いたりすることで深さを増していきますから、高大連携によって進路を多様化して考えられるとようになったと思います。
※多様な高大連携・学びについてはコチラ↓ https://www.yamawaki.ed.jp/career/collaboration/
https://www.yamawaki.ed.jp/blog_cat/education/
藤村先生:高大連携協定を結んでいなくても、声をかけさせていただくと受け入れてくださる大学はけっこうあります。これまでにも希望制で、東京大学や東北大学をはじめ、九州大学や北海道大学、金沢大学などの連携プログラムに現地で参加しています。
小沼先生:好きなことを追究できる環境の中で、女子としての逞しさが増している感じです。
藤村先生:そう言えば、女の子が虫が好きと言うと「えっ!?」という反応をされがちですが、本校の生徒たちにはそれが一切ないのです。「そうなの? 私はカエルが好き!」と。これも、女子校の良さですね。

デジタルファブリケーションを用いて「アイデアを考える→製品として仕上げる」過程も学ぶ
「すべての授業での学びは、より高い場所から先にある風景を見渡す助けとなる」という教育哲学をお持ちですが、御校を知れば知るほど、御校では豊かな学びが展開されているという思いを強くします。
小沼先生:現状の大学入試はまだ文系・理系に分かれますので、高2で文理分けは行いますが、例えば、歴史的背景がわからないと科学の進歩も理解しにくいなど、物事は文理というカテゴリーに分けきれない、すべて繋がっているんだと生徒たちなりにわかっていると思います。それを踏まえつつも、本校には進路を考える材料や機会がたくさんありますので、「どうしようか」と悩むと思います。でも、最終的には自分なりに納得して自分で決めていけるような進路支援を大事にしています。
藤村先生:理科では「失敗すること」を大事にしています。でも、それは実は失敗ではなくて、「この方法ではだめなんだ」とわかることです。ですから、失敗することで「じゃ、次に行こう!」という行動力に繋がってくれればと思っています。
小沼先生:ほんとですね。どの学年でも「学校って、失敗していいところなんだよ」という話はよくしています。失敗から学ばせる姿勢と言いますか、どの教科でも最初から教えすぎず、なるべく生徒から引き出すことを重視しています。
御校は、入試形態が多様であることにも表れている通り、いろいろなこと興味を持っている生徒さんの集まりだとも言えますね。
藤村先生:せっかく違う要素を持っている生徒たちが集まっていますので、刺激し合いながら、お互いに育っていってほしいですね。実際、生徒たちはそのように過ごしていますし、プログラムも多彩ですので、興味さえ持ってくれれば、やれることはいくらでもあります。
小沼先生:この十数年で、生徒たちは相当変わってきています。時代もあるかもしれませんが、私たちも変えようとしてきましたので、ひと昔前とは違ったタイプの生徒たちが入ってきているというのは実感します。「こういう子を伸ばしたい」というアプローチに応えるような生徒が入ってきてくれている感じです。だいぶ前、教員研修の際に「山脇生の良いところ・足りないところは何か」という話し合いをしたのですが、その時「素直で良い子。言われたことはきちんとやる」、でも「失敗を恐れたり、新しいことにチャレンジするのを躊躇う子も多い」という結論に至ったのです。「じゃあ、新しいことに主体的にチャレンジするようになると、山脇生って最強だね」と。
藤村先生:そこを育てていくために、教科、分掌、学年それぞれで、どのような仕掛けをしていくかを全教員で練っています。最近では、オープンキャンパスの際の来校者アンケートを読むと「とても主体的な印象」「意欲的に案内してくれた」と、生徒の印象がかなり変わってきたと感じています。
先生方の熱意と、生徒さん方の意欲が見事に呼応していますね。それでは最後に、受験生へのメッセージとして、理数探究入試に込められている先生方の思いを改めてお聞かせください。
藤村先生:世界は不思議で満ちあふれている。ですから、身の回りの一つひとつを単なる知識ではなく、自分の生活にリンクさせて考えてみてほしいですね。例えば、普通の歯ブラシと電動歯ブラシは何が違うのだろうとか。そして、それを探究してほしいと思っています。日頃から視野を広く持ち、日常の「当たり前」に疑問を持ってください。
小沼先生:「なぜ?」と考える時間を大事にしてほしいと思っています。算数の問題を解く際も単に公式に当てはめるのではなく、なぜこの公式を使うのかと、自分なりに考えてみてください。中学からの数学では抽象概念が入ってくるので、見えないものを自分で想像して見えるように組み立てていかなくてはなりません。さらに言えば、人生は探究そのものです。中高時代は探究心の基盤作りをするための時間ですから、私たちが少しでもそのお手伝いができればと思っています。
●試験日程:2026年2月3日(火)午後
●募集定員:20名
●試験科目:算数(40分・50点) 理科(40分・50点)
「算数」は算数的思考力を測る問題を、「理科」は生活の中での科学をテーマとした問題を出題します。
2026年度募集要項
https://www.yamawaki.ed.jp/wordpress/wp-content/uploads/2025/07/2026yamawaki_youkou_ippan.pdf

季節ごとにイベントが開催されるほか、「イングリッシュアイランドステイ」など
オールイングリッシュの授業も行われ、4技能5領域を磨いていく
- 取材Memo
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「志を立てれば、それはきっと叶えられる」を真に支える教育を展開
中1・中3でのクラス編成は2種、高校では3種と、実にきめ細かな体制を取り、生徒に自分の興味・関心への眼差しを深めさせていく。また、SSHにも指定される同校ですが、分野を問わず正解のない課題に立ち向かうため、サイエンスマインドを核とした探究心を育てようと、学年に応じてきめ細かなサイエンスプログラムを展開しています。※クラス分けについてはコチラ↓
https://www.yamawaki.ed.jp/education/curriculum/赤坂という都心の一等地ありながら、山脇学園短期大学だった施設を改修した「サイエンスアイランド」内には畑のある屋外実験場もあるほか、「山脇有尾類研究所」ではイモリやサンショウウオなどの再生能力に着目した研究に取り組むなど、その環境は圧倒的と言えます。でも、今回の取材を通して最も感じたことは、圧倒的な環境を超える圧倒的な「教員力」です。これらの環境と体制を維持・発展させることは並大抵ではないはずですが、教員研修、教科研修が頻繁に行われ、合意に至った方針を全体で推し進めていくとお聞きして、納得でした。
このような環境の中で育った卒業生たちは、「私たちは何でもできる気がする。だから、一人でも十分に生きていけると思う」と言うのだとか。「それもどうかな」と苦笑いする先生方ですが、卒業生たちは社会に出てみて、山脇学園は常識的基準が高く、そこで過ごした6年間で社会性を身につけられたと実感しているのだそうです。今回も、山脇学園の魅力に改めて出会えた一時でした。

「総合知の育成」を目指す同校らしく、体育では6年間を通して「ダンス」の授業が必修。
身体を通した表現活動として、ダンスの創作も行っています。
そして、中3は体育祭で「メイポールダンス」(ヨーロッパ各地で行われる、春の到来を喜ぶ伝統舞踊)を踊るのが恒例。
同じく体育祭で披露される高3の「ペルシャの市場にて〜プロムナード〜」では6年間の想いを込めて、それぞれの学年で決めた漢字一文字と「ハートに富士の校章」が描かれますが、これは半世紀以上も踊り継がれる伝統となっています。