「情操を養う」「合理的精神を養う」。跡見学園の教育理念の一部です。目指すのは、本物に数多く触れ、五感を磨いて豊かな心を育み、知性を磨いて「思う」ことに加えて「考える」ことのできる理知的な人を育てること。同校の創立は、明治維新末期の1875年。日本人が設立した最古の女子教育機関であり、「ごきげんよう」の挨拶を学校で用いたのも、私立学校で制服を作ったのも同校が初めてです。
創立者の跡見花蹊先生は宮中の女官に書画や漢詩を教えていた方ですが、その花蹊先生が創出した「学びの型」「生活の型」の伝統を大切に継承しつつも、それを土台に、時代に相応した発展的な学びを展開しています。 同校が実施する「思考力入試」について、国語科の中島輝賢先生と、中2のY・Fさん、N・Sさんにお話を伺いました。
■未開発の秀でた力を見出し、伸ばしたい
「しなやかさ」「創造」「協働」をキーワードに、3つの教育ビジョン「跡見流リベラルアーツ」「本物の美の探求」「探究型創造学習」を掲げる跡見学園は、目指す生徒像を「自らの美意識のもとに新たな価値を生み出し、周りを幸せにする女性」としています。
御校が考える「美意識」とは、どのようなものでしょうか。
「跡見花蹊先生から脈々と続く『生き方の中心になるもの』でしょうか。本校が考える美意識とは、心のあり方や考え方、行動に対する、『人としてこうありたい』という自分なりの価値観です。それを持たないと、人は美しくなくなります。美しさとは幸せと同じで、一人ひとり違いますから、本校の長い伝統の中で培ってきた良さはそのままに、時代の流れに即したプログラムをプラスしながら、それぞれが自分らしい美意識を持てるような教育を行いたいと思っています」
そのビジョンは入試にも反映されていますが、「思考力入試」の内容が、主人公の「さくらさん」(校章の桜に由来)が調べ学習をしていく物語に沿って展開する形になって6年が経ちました。
ここで、これまでにどのような問題が出たのか、振り返っておきます。
●「思考力入試」の出題(抜粋)
2019年:ニュージーランドにある跡見学園の姉妹校に留学しているお姉さんから、いろいろな話を聞いていたさくらさんが、そのお姉さんの言葉から推測してニュージーランドの国旗を描く。
2020年:跡見学園の挨拶「ごきげんよう」を海外の人にもわかりやく伝えるために、おもてなしの心を表すようなピクトグラム(グラフィック・シンボル)を作る。
2021年:さくらさんが入学祝いに時計をもらったことで時間に対する意識が変わり、それをきっかけに生活習慣を考えていく。
2022年:新しい友達ができたさくらさんが、どういう人が友達で、どういう人が友達ではないのかと友達のあり方を考える。最後に、体育祭で踊る「メイポールダンス」の動画を約2分間見た後、キャッチコピーを作る。
2023年:中学生になって電車運賃が大人料金になったことをきっかけに、
2024年:入学後、一緒に昼食をとることをきっかけにして、さくらさんやクラスメイトたちが海外における学校での昼食やお弁当の歴史などについて調べたり発表したりする。
「作問にあたっては、入学したらどのような学校生活が待っているのかを具体的にイメージできるように、入試問題とその後の教育のつながりを意識しています。また、問題の中に受験生に使ってほしいツールがあるのですが、それをどういうふうに入れていけるか。同じメディア(伝達手段)を使って表現するのではなく、言葉をどう図表化するか、逆に図表をどう言葉化するかということも重視しています」
言葉を可視化するする試みは、跡見学園の授業では日常的に行われています。例えば、国語科では読書感想文を書くのではなく「読書感想画」を描いたり、図書館に行って表紙だけで本を選んでみるといったことも。
また、中3では島崎藤村の「初恋」の詩のイラスト化に取り組んだこともありました。
「自分の解釈をどう表現するかが大事なのです。この『初恋』の時、ある生徒は、額に収められた年老いた夫婦の写真と、その前に桃が供えられている絵を描きました。初恋を実らせ、二人で人生を全うしたのです。このように、その後の展開を考えるなど、生徒たちの感性は本当に素晴らしいですね」
受験生くらいの年齢の自己表現としては、文章を書いたり絵を描くことが最も取り組みやすい手段ですが、その中に、どこまで考えているかが表れ出るのですね。
「言葉を使うことに粘り強く向き合うことは、入学した後の他教科の学習にも敷衍していくと思っています。言葉はロゴス(論理)ですから。数学を専門とする友人が『文学と数学は似ている』と言っていましたが、言葉を論理的に読んでいくからかもしれません」
過去問を見ると、状況設定が受験生にとってとても身近で具体的です。「思考力入試」をはじめ御校の入試では、6年間の学びの中で心や行動の美しさ、そして思考の美しさを持つ女性への階段を上る、意欲と脚力を持つ受験生を発掘されているのですね。
「大人になると忘れてしまったり、失ってしまうものがありますが、子どもにはその時点でしか出せない秀でた力というものがあります。その未開発な部分を見出し、本校の教育の中でどう広げ、どう養っていくかが大切だと思っていますので、入試の作問についてもかなり協議を重ねています。私たち教員も大人ですから、忘れてしまったり失ったものがたくさんありますが、身近に生徒たちと接していますので、いつも再発見させてもらっています」
■思ったことを素直に書き表すことが得意な人は、ぜひ受けて!
小1の時にハガキコンクールに応募するなど、幼い頃から「書く」ことが好きだったというY・Fさん。今も、作文や読書感想文を書くことが大好きだそうです。
この「思考力入試」を受けようと思ったのはなぜですか。
「塾で思考力テストを受けてみたら、自分の考えをそのまま書く問題が多かったので、それで点数をもらえるのはいいなと。あと、母の友達が跡見の卒業生で『素敵な学校よ』とずっと聞かされていたんです。ですから、跡見に入りたいという気持ちがあり、体験して自信をつかんだ『思考力入試』を受けることにしました」
「思考力入試」に向けて、どのような準備をされたのでしょうか。
「普段からニュースとか新聞を見て、思ったり、感じたりしたことを家族と話していました。それが役立ったと思います」
そして、跡見学園に入学。学校生活について教えてください。
「クラスには笑いが絶えなくて、最初は『おもしろい子ばっかり!』と思いましたが、授業になるとビシッとして、そのギャップが良いんです。あと、みんな親切だし、礼儀正しいですね。私も礼儀正しい、気遣いのできる人になりたいと思っていますが、この1年間で少しは成長したかもしれません。以前は家族に『ごめんなさい』のひと言も言えなかったのですが、今では母が『花蹊先生の力って、スゴい!』といつも言っています。跡見では、生活面での基本的なことを自然と学べるのも嬉しいです」
今、勉強はどのような感じですか。
「好きな教科は歴史ですが、英・数・国の主要3科目をもっと頑張らなくてはと思っています。歴史は、人物が起こしたことを学ぶのがおもしろくて、頭にスッと入ってくるんです。作文が好きなのに、国語があまり得意ではないと思っているのは、自分の思いを書くのではなく、指定された文章から読み取るといったことが苦手だからなのかもしれません」
創作に向いているのでしょうか。将来、作家を志望されるかもしれませんね。
「それもいいなと、今思いました。自分の将来に期待したいですね」
学校生活の中で、夢中になっているものはありますか。
「バスケットボール部の活動です。スポーツは大好きで、バスケットボールも小3からやっていました。バスケットボールは一人ひとりの個性は必要だけれど、集団性というか、チーム内の関係性をつかむ大切さなど、学べることがたくさんあってやりがいを感じています」
最後に、この入試はどのようなタイプの人に向いていると思いますか。 先輩として、受験生にメッセージをください。
「あまり難しく考えないで、思ったことをパッと素直に書き表せる人が向いているのではないでしょうか。あとは見直しをする時、『5W1H』をできるだけチェックするなど、自分の解答を客観的に見ることが必要だと思います。私も文章を書く時は、いつもそうするように心がけています」
■跡見は、自分の可能性を最大限に伸ばせる場所
本を読むことが好きで、教科では国語が好きというN・Sさんですが、 この「思考力入試」を受けようと思ったのはなぜですか。
「塾の先生に跡見を勧められたのがきっかけです。その後、自分で調べてみて『図書館がいいなぁ』と思ったんですが、学校見学の時に案内してくださった先生方の雰囲気がとても良くて。先生方ご自身が、とても学校が好きなんだということが伝わってきたのです。先輩の皆さんも同じ雰囲気だったので、第1志望校になりました」
実際に試験を受けてみて、どのような感想を持ちましたか。
「入試では、『考えて答える』問題が多かったですが、なかには『理科と国語が混ざったような』問題もあって、それがおもしろくて印象に残っています。実際、今はそういう融合した学びが多いです」
学校生活について、どのような感じか教えてください。
「私が思っていた以上に、先生方も先輩も友達も温かいです。先生方はもちろんですが、チャレンジする人をみんなで心から応援する雰囲気があります。国語が好きなら、跡見を受けることをお勧めします」
N・Sさんの14年の人生の中で、一番最初の記憶は「ベビーカーに 乗りながら『ピーターパン』の絵本の絵を見ていたこと」だとか。
そんな頃から本が好きだったN・Sさんですが、勉強はどうですか。
「数学や理科は苦手で、やっぱり国語が好きです。数学とかははっきり答えがあるけれど、国語は答えが一つではなく、自分の言葉で表現できるし、型にはまらない感じが好きです。将来は学校の国語の先生か、図書館司書になりたいと思っています」
ところで、跡見学園といえば「ごきげんよう」の挨拶です。
その言葉の良さを教えていただけますか。
「昼夜問わず、そして立場も関係なく使える言葉です。例えば、友達には『おはよう』だけれど、先生には『おはようございます』と言います。でも、『ごきげんよう』ならどちらにも使えます。創立者の花蹊先生が宮中と繋がりがあったために跡見でも使われるようになった、もともとは御所言葉ですが、実際に会えるわけではないけれど、花蹊先生とも繋がれているところが良いと思います」
「野の花が香るような柔らかい、優しい女性になってほしい」
そんな親御さんの願いを込めて名づけられたというN・Sさんですが、 どのような大人になりたいですか。
「周りに気を配ることのできる、まっすぐな大人になりたいです。みんながこう言うからとか、世論がこうだからではなく、自分が正しいと思ったことを大事にしていきたいです」
では最後に、この入試はどのような人に向いていると思いますか。 先輩として、受験生にメッセージをください。
「自分の言葉で何かを表現するのが好きな人に向いていると思います。勉強が得意じゃなくても、表現することが好きな人は、ためらわずにチャレンジしてほしい。学力が足りないからと、諦めないでほしいです。跡見は、自分の可能性を最大限に伸ばせる場所だと思うので」
- 取材Memo
-
伝統と革新を兼ね備え、「教育への美意識」を持つ学校
中島先生にお話を伺いながら、跡見学園は「教育美学」を持つ学校だと思うと同時に、生徒さんお二人のお話からは、入学して1年あまりしか経っていないけれど、学校の伝統や思いが早くも根づき始めていることを強く感じました。跡見花蹊先生の教えを受け継ぎ、「しなやかで凛とした女性」を育てることを使命とする同校ですが、生徒さん方が、柔らかな眼差しでこちらの目をまっすぐに見て、姿勢を正して丁寧に対応してくれる姿が印象的でした。そして、何より、学校のビジョンとして「美意識」という言葉を明確に聞いたのは、跡見学園が初めてでした。それが、同校の教育のすべてを物語っていると思います。
跡見花蹊先生による「跡見流」書道は今も継承されている