山脇学園が新設する「理数探究入試」は、探究心を持って学びを楽しむ生徒を育てるための入試です

理数探究入試

創立から120年を超える女子伝統校・山脇学園は、「総合知の育成」と「実社会で活きる力を持ったサイエンティストの育成」を目指し、リベラルアーツに基づいた文理融合教育を展開しています。そして「どの道も、歩み続けていくには強い思いと道しるべ=志」を育む教育にも尽力。「イングリッシュアイランド」「サイエンスアイランド」など充実した学習環境も圧巻ですが、ここではSSH(スーパーサイエンスハイスクール)に指定される同校のサイエンス教育の序章となる「理数探究入試」についてご紹介します。そこに込める思いを、高校教頭の髙村隆博先生に伺いました。

得手不得手は、そのまま持ってきてください。入学後には新しい経験が待っています

高校教頭の髙村隆博先生

まず、昨年まで実施されていた「探究サイエンス入試」を今年度から「理数探究入試」に改編する意図をお聞かせください。

「『探究サイエンス入試』は4年くらい行っていたのですが、実験的要素を入れてその場で考えるという入試でした。そこではさまざまな力が問われるのですが、実験が得意な受験生もいれば、表現することが得意な受験生もいる。限られた時間の中で、受験生が持っている力を本当に測りきれるのだろうかという懸念が生まれたのです。そこで、算数と含めて潜在的に持っている思考力も測り、入学後にさらに伸ばしてあげられるようにと『理数探究入試』に変更しました」

当たり前のことかもしれませんが、入試そのもののあり方も丁寧に検証し、更新されているのですね。

「本校はさまざまな入試を行っていますが、入試で、どこまで受験生の力を測れるのだろうかということは常に考えています。例えば、国語または算数の1科目入試は、一つ秀でたものを足がかりに多様な学びの力を育ててほしいと思って始めたものです。本校の生徒たちにもそれぞれに得手不得手があり、価値観が異なるいろいろな人が一堂に会しているわけですが、その中で影響し合うことの良さは生徒の様子を見て実感しています。ですから、例えば受験勉強が間に合っていなくても、力を持っている受験生を見つけてあげたい。こういう人に来てほしいという以上に、来た人を全力で伸ばしていかなければという思いが強いですね」

「理数探究入試」の作問についてですが、算数でも単なる計算問題ではなく、複線的な頭の動きを求めるといいますか、御校が掲げる「総合知の育成」に繋がっているような気がするのですが。

「算数を例にとると、2⃣以降は途中式を求めていて、たとえ答えまで辿り着けなくても部分点をあげるとか、受験生の力をできるだけ正確に測ってあげたい、見つけてあげたいという意図で作問しています。図でも言葉でも、解答に近づいているなというところに対しては、できるだけ評価してあげたい。ただ、奇をてらったものになってはいけないので、受験生が身につけてきた力がきちんと表れるようにすることを前提に問題を構成しています」

生活の延長線上にあるような「あ、これ、聞いたことある」という身近な素材を用いた問題が多い印象です。

「そうですね。入試ではありますが楽しめるような、試験が終わっても『あれって、何だったんだろう』と、続きを考えたくなるような問題になっていればいいなと思っていますね」

※2025年度「理数探究入試」理科のサンプル問題1より
※2025年度「理数探究入試」算数のサンプル問題2より

上の理科と算数のサンプル問題は、同校のホームページに掲載されています

昨年までの「探究サイエンス入試」で入学された生徒さんは、 やはり「理科が好き!」という方が多かったのでしょうか。

「算数や理科が好きという受験生と、本校を第1志望にしているお気持ちの強い方がチャンスの一つとして受験することが多かったですね。逆に来年度からの『理数探究入試』では、この入試で力を発揮できる受験生に受けてほしいという気持ちがさらに強まっていることは確かです」

御校のサイエンス教育には伝統がありますし、実践の場がとても多いですよね。

「15年近く前、『山脇ルネサンス』という改革を行った時に、短大の校舎を中高の特別教室として改修し、サイエンスアイランドを作りました。実験や研究の環境が整ったことが、サイエンス教育を充実させる一つのきっかけでしたね。そこでは理科の授業だけではなく、中1・2で『サイエンティスト』という授業を週に一回設けて、教科書にない実験も楽しみながら行っています」

「サイエンティスト」も御校独自の素晴らしい授業です。

「理科嫌いのまま入学してくる生徒もいますが、理科に限らず、本校は得手不得手はそのまま持ってきてくださいというスタンスです。ただ、入学したら苦手意識は一回リセットして、いろいろなことをやってみましょうと。ここはおもしろいな、ここだけは好きだなという、違う見方が一つでもできるようになればいいのです。『サイエンティスト』の授業がそういう機会になればと思っています。実際、そのような機会を豊富に設けることで理科が好きになる生徒もいますし、算数が苦手でも数学が好きになる生徒もたくさんいます」

「おもしろい!」を発見する「サイエンティスト」の授業

そのような機会があることで、生徒さんの世界観も変わりますね。

「そうですね。中3からチャレンジクラス(下図参照)が設けられますが、例えば『科学研究チャレンジクラス』では、去年まで西表島に1週間行ってマングローブの森に入ったり、野生生物の調査をしたりといろいろな体験をしていました。今年度からは屋久島・種子島で同様の活動をしていますが、本物を見ることで衝撃を受け、将来に結びつくこともあります。それぞれの生徒にとって何がヒットするかわかりませんから、机上の勉強だけではなく、現地に行って話を聞いたり、雰囲気を感じたり、匂いを嗅いだり触れたりすることで、本物から学ぶことを大事にしています」

※クロスカルチャークラスは帰国生入試、英語入試入学者になります。

「中学では段階を踏みながら、多様な分野に目を向けて望む方向性を自ら選択させ、探究力を育む教育を展開しています。中3で特化したことを深く学び、高校でもう一度他の様々な分野に目を向けるようリセットすることで、科学研究チャレンジクラスで学んだ生徒が法律の分野から科学を支えたいと文系に移る場合もありますし、英語チャレンジクラスで学んだ生徒が、やっぱり研究をしたいと理系に進む場合もあります。一つの山を登って頂上から景色を見たことで、あっちの山に登ったらどういう景色が見えるんだろうと、想像力を持てるようになるのでしょう」

御校の学習環境は「チャンスがいっぱい」とも言えますね。

「そう思っていただければ嬉しいですね(笑)。そのためにも基礎知識は大事ですので、そこはきちんと身につけさせるようにと思っています。興味を持った時に動けない、せっかくのチャンスに気づけないのはあまりにももったいないので、そうならないようにと」

今でこそ「サイエンス力」の重要性が喧伝されますが、御校がサイエンス教育に込める思いはどのようなものでしょうか。

「昔は女子校というと理系に弱いという先入観がありましたが、そうではないでしょうと。学校として当たり前のこととして、サイエンス教育に力を入れていると言えるかもしれません。中2の技術の時間では3Dプリンターやレーザーカッターを使って製作したロボットをobnizというプラットホームを利用して動かして、ロボットコンテストも行います。コロナ前のことですが、SI(サイエンスアイランド)クラブに所属する生徒が、本田技研さんが実施している『Hondaエコマイレッジチャレンジ2019』の全国大会に初出場しました(137チームが参加)。これは1リットルのガソリンで、手作りカーを何km走らせることができるかを競うものですが、並みいる男子校がビュンビュン走らせている中、トロトロと(笑)。でも、最後まで走りきりましたし、男子校の凄さに衝撃を受けながらもへこたれていませんでしたね。とても良い経験ができたと思います」

昔の教育を受けた身としては、御校で学ぶ生徒さん方を羨ましく思います。

「よくわかります(笑)。私も正直、生徒たちを見ていて、たくさんのことにチャレンジできていいなあと思うことがあります。手前味噌になりますが。学生だった頃は役に立たないじゃないかと思っていたことも、いろいろなことに繋がってくると今になってわかりますから(笑)。ですから『役に立つから』という理由で勉強してほしくはないですね。何に役立つかなんてわからなくてよいし、役に立つ・立たないではなく、単純におもしろいということを大切に、いろいろなことにチャレンジしてほしい。生徒たちには『理解する前に嫌いになるな』とよく言っているのですが、まずは、いろいろなものに目を向けてほしいですね。本当に、何に繋がっていくかわかりませんから」

本当ですね。18歳や22歳で行く道が決まるわけではないですから。御校の学びの中では、「軌道修正」する力も身についていくのではないでしょうか。

「その通りです。卒業してからいろいろなものを見つけて発展させている人もたくさんいますし。やってみて違う場合もありますから、やり直すための土台は可能な限り中高で作ってあげたいとも思っています。実際、就職して数年経ってから自分が目指すものを改めて見出し、『もう一度、大学に入り直します』という卒業生もいます」

人や物事の多様性の中で、人としての骨格を作り、次代を生きる力を涵養します

御校の目指す「総合知」はインパクトの強い言葉ですが、どのようなものなのか教えてください。

「実は、これは内閣府が言っている言葉なのです。人文・社会科学と自然科学を含む知の融合という意味ですが、本校の考えと合致していると思い、あらゆる学びをサイエンスできる力をつけるカリキュラムでいろいろなことをやっていきますよと宣言する意味でプログラム名としています(笑)。その1つである『サイエンティスト』という授業では、ニワトリの肝臓からDNAを抽出する一方で、遺伝子を解明して出生前診断をすることは人として正しいことなのかと別の授業で考えてもらったりします。答えのない問題はたくさんありますが、中学生なりに考えて答えを出すことを大事にしています」

「道徳」の授業もありつつ、人としてのあり方を実験の場でも考える。すべてが繋がっていますね。

「そういう面でも、先程申し上げた多様性、価値観も含めていろいろな人間がいることが学校には必要なのです。友達はなぜそう考えるのか、そういう考え方もあるのかと刺激になりますので」

先程、生徒さん方の「影響し合うことの良さ」というお話がありましたが、生徒さん方が「学び合う」授業も御校の特色ですね。

「今、本校の授業は『学び合い』に移行しています。わからないことを教員に質問する前に、まずは友達に聞く。そして、わかる人はどんどん教える。そうしたところ、生徒がわからないことや間違えることをだんだん恥ずかしがったり恐れたりしなくなってきたのです。また帰国生も増えているのですが、帰国生は積極的なので『あんなことも質問しちゃうんだ』というのを目の当たりにして(笑)、『わからないことは恥ずかしいことではない』とわかっていく。一方、教えるほうも自分が理解した道すじとは違うアプローチで表現しないと伝わらないこともありますので、結局自分も本当に理解していなかった部分がわかったりします。学び合いは思考するうえでも大きな土台になっていますね」

「混ざること」に慣れると、怖さもだんだんなくなっていきますね。

「以前は、授業についていけない生徒には補習を行っていました。また、例えば数学でも習熟度別に授業を行っていたのですが、今はできるだけ同じクラスに得意な人と不得意な人が共存する形をとっています。その結果、クラス全体で成績が上がるなど、その効果は数字でも出てきています。人間性も含めて、価値観の違うさまざまな人がいるという環境は学力向上の面でも効果は高いですね。その中で教師は生徒が今学んでいる学問の深い学びの先にあるおもしろさや景色の片鱗を見せる役割があると思います。本校としての「学び合い」は、まだ発展途上と言えますね(笑)」

御校の生徒さん方は、どんなふうに成長していくのでしょうか。

「本校には様々な入試で多様な資質をもつ生徒が入ってきて、いろいろな人と出会います。クラス替えも毎年行い、中1・2では席替えも毎週行っています。ただ、どんなにクラス替えをしても、すぐに仲良くなれる人もいますが、そうではない人も必ずいます。『本気で取り組む』ことは本校の文化なのですが、体育祭や文化祭、合唱祭など、たくさんの学校行事では、普段苦手だなと思っている人とも一緒にやらざるを得ません。当然ぶつかり合いもありますが、だんだん日頃は見えなかった相手の良い部分に気づいたり、新しい自分を知る経験をします。価値観の違う人同士が、一つの目標を共有する経験を6年間繰り返していくうちに、相手がどんな人でもその良い部分を見て、受け入れて、一緒にやれるようになっていく。卒業生がよく言うのですが、『相手を知って受け入れることは、社会に出れば必要になることですが、その素地を作ってもらった』と。そのために、我々もあまり先回りしすぎないように心がけています」

では最後に、御校の「理数探究入試」を受けようと考える受験生に、メッセージやアドバイスをいただけますか。

「入試の型にかかわらず、本校で学びたいと純粋に思ってくださる方であれば、どなたでも歓迎します。とにかく、得意科目や不得意科目はそのまま持ってきてください。その先には、必ず未来に繋がっていく環境があるので大丈夫です。理数探究入試は初めて行いますが、サンプル問題を参考にはじめから模範解答をなぞるように解くのではなく、自分の着眼点をできるだけ大切に解いたり、なぜこの公式で解けるのかなど、自分でもう一歩深く考えて解いてみてください。日頃から当たり前のことにも『なぜなんだろう?』と考える習慣をつけていてほしいですね」


■「理数探究入試」募集要項
●試験日程:2025年2月3日(月)午後
●募集定員:20名
●試験科目:算数(40分・50点)/理科(30分・50点)

 「理科」は生活の中での科学をテーマとした問題を、「算数」は算数的思考力を測る問題を出題します。 

2025年度募集要項
https://www.yamawaki.ed.jp/wordpress/wp-content/uploads/2024/08/2025ipanyoukou.pdf

理数探究入試案内ページ
https://www.yamawaki.ed.jp/information/2024risu/

英語・異文化理解教育にも定評ある同校。
上は中1・2の夏期集中講座「英語イマージョンウィーク」の様子

取材Memo

If you can dream it,you can do it.
「志を立てれば、それはきっと叶えられる」。同校の教育の真髄です。「『志』とは富士の如く高く、北極星の如く見失うことのない道しるべである」と。実は、取材の前に同校のパンフレットを見たのですが、まるで一編の物語を読んでいるような感覚を覚えました。教育への思いと教育風景を語る言葉の一つひとつに、先生方の清明な眼差しを感じたからです。教頭にお話を伺っている間も、その印象は変わりませんでした。
東京都港区赤坂四丁目。国道246号線から1本路地を入って少し歩くと、7年前に同校に移築された武家屋敷門が見えてきますが、それは「志の門」と呼ばれています。繁華な都心にあって、そこだけ静かな佇まいを見せる同校ですが、敷地の一角には屋外実験場として畑もあります。その畑には姫りんごや葡萄、柿の木なども。取材後に学校内を見学させていただきましたが、昨年設立された山脇有尾研究所も擁するサイエンスアイランドや、イングリッシュアイランドの充実ぶりには目を見張るばかりでした。女子校の大学進学においては、総合型や推薦型選抜が比較的多い印象がありますが、このような豊かな環境の中で、たくさんの選択肢を視野に入れながら存分に学べる同校では、一般選抜にチャレンジして進学していく生徒が多いのも頷ける気がしました。



共感しながら協働し、表現する力を育むために、
中1〜高1ではDEP(ドラマエデュケーションプログラム)を実施。
これは、クラスの枠を超えてグループを編成し、
出されたトピックについて話し合い、体を使って表現するもので、
「STEAM」の「Arts」の一翼を担っています。