スポーツや吹奏楽(2022年全国大会第3位)の強豪校の藤村女子は、創設者が明治、大正、昭和を代表する体育指導者である藤村トヨ先生ということもあり、スポーツのイメージが強い学校でした。しかし藤村女子は、そのイメージを変える「ナゾ解き入試」という前代未聞の新しい入試を昨年度からスタート。それはどんな試験なのか、またその狙いはどこにあるのか。「ナゾ解き入試」の発案者であり入試広報部長の芦澤先生にお聞きしました。
なぜナゾ解きを入試に採用したのですか?
「インターネット検索で何でも答えを見つけられる今、教科書に書いてあることは検索すればいいので覚える必要がなくなるかもしれません。またAIがどんどん生活の中に入ってくると、モノを動かすことは全部AIが行うようになるかもしれません。しかし人の気持ちを動かすことは、きっとAIにはできないと思うのです。ナゾ解きを遊びやゲームと捉える方もいらっしゃいますが、ナゾ解きは自分が持っている知識と思考の引き出しをいろいろ開けて答えに辿りつくルートを探すものです。そこには個性が現れ、わからない問題に対してワクワクして考え続ける知的好奇心が必要とされます。ナゾ解きの魅力はそこにあり、作問者はこのワクワクのために頭をひねり、回答者も知的好奇心が刺激されてワクワクするのです。このワクワクこそが人の気持ちを動かす原動力であり、まず受験生に受け取ってほしいと思っています。」
確かにAIやロボットと会話をするイメージは持てても、AIやロボットが人に喜怒哀楽を提供して、人の心を動かすことはあまり想像できません。ではそんな人の心を動かすワクワクは、入学後、どんなカリキュラムにつながるのか?芦澤先生に質問をしたところ、それはオリジナル授業の自己探求のエンターテイメント論だといいます。
オリジナル授業のエンターテイメント論はどんな授業なのでしょうか?
「ナゾ解きでワクワクを味わったら今度は、ワクワクを振る舞う側、つまり人の気持ちを動かすことを学んで欲しいと思っています。一口に気持ちを動かすといっても、その時々やシチュエーションによっても気持ちの動き方は変わります。そのためエンターテイメント論では、その時その場を共有している人の気持ちを動かすライブ感を大切にしています。なぜかというと目の前で見ないと気持ちが動いたかどうかわかりづらいからです。ただ、ライブ感を大切にしながらも、ゴールの設定は明確にし、その過程は生き物として考えています。例えばホラーテイストのYouTube動画を作成してそのエンデイングを文化祭で発表するとか、学校を借りきった脱出ゲームを企画してみよう!などの目標設定を行い、その目標を達成するためには何が必要で誰がどう行うかを話し合う授業を行っています。」
ホラー動画に脱出ゲーム!? 何だかテレビ番組の企画のように聞こえるエンターテイメント論の授業ですが、ホラーテイストのYouTube動画の主人公を決める際、まず手を挙げたのは柔道部の元気な子。しかし、「ホラーで追いかけられて最後はその子の表情を文化祭で見せて終わるのだとしたらどんな子が良いと思う?」と聞くと、自ずとか弱そうな子に白羽の矢が。人の気持ちを動かすには、受け取る人の気持ちを想像できなければならないし、人には個性があって、輝く場所が違うことを感じて欲しいと芦澤先生はいいます。
エンターテイメント論の先にあるものは何でしょう?
「これからの時代を生きていくためには、自分が持っている力を把握して、自分は何色か知っておくことが大切です。0から1を作り出せる子、先頭に立って突き進む子、それをサポートする子など個性はいろいろで、無理して自分に合わないことをやる必要はないのです。これからは大学や就職がゴールの時代ではありませんから、道を間違えない、自分の色で生きていける力をエンターテイメント論で身につけて欲しいと思っています。」
そんな狙いのエンターテイメント論は、まだ研究も体系化もされていないコンテンツですが、まさに最先端の授業!受講している生徒はどう成長していくのか興味津々です。そして最先端なのは授業だけではありません。芦澤先生が仲間の先生と展開している「ふじむら調査団」も最先端!最先端というコトバが古臭い、イケてる(このコトバも古臭い)取り組みです。
最後にナゾ解き入試について教えてください
「試験は、一人で解く筆記試験の謎検型(15分)と、4〜5名のチームで協働して答えを見つける脱出ゲーム型(50分)で行われます。採点は、謎検は正解数、脱出型は「発想力」「会話力」「考察力」「行動力」「洞察力」の5つの観点に分け、例えば、行動力であれば、封筒を開ける、問題を配る、その回答を取りまとめる、移動をする際にみんなに声をかけるなど、想定される行動を洗い出し、それに対する加点を用意し採点を行っています。」
ナゾ解きを教育に取り入れた世界でも類を見ない取り組みと、自分の色を知るためのナゾ解きを発展させたエンターテイメント論の授業と。「教育×ナゾ解き」が切り拓く新たな世界には、計り知れないポテンシャルが秘められていると思う取材となりました。
教えて!学校のこと 試験のこと
「ナゾ解き入試」を今年受験した生徒さんがアンケートに答えてくれました。ぜひ参考になさってください。
Q1 中学受験を考えはじめたのは何年生の頃ですか?
・かなり遅くて6年生の夏です(S.Kさん)
・4年生の頃です(W.Hさん)
Q2 藤村女子をどこで知りましたか?
・クラブチームでバスケットボールをしていたので、バスケットボールが強い学校を探していました。お母さんの知り合いから藤村はバスケットボールが強い学校と教えてもらい知りました。(S.Kさん)
・お母さんがバスケットボールのコーチをしていて、もっと上手くなりたいと思い、お母さんにバスケットボールが強い学校を探してもらって藤村を知りました。(W.Hさん)
Q3 なぜ「ナゾ解き入試」を受けてみようと思いましたか?
・科目の試験はあまり得意ではなかったので受けてみようと思いました。ナゾ解きがダメだったら自己表現入試も受験しようと思っていました。藤村スカラシップ制度の奨学金を目指して過去問を解いていました。(S.Kさん)
・一般的な受験勉強とは関係のない、誰でも受験できる試験という紹介だったので受けてみようと思いました。私も奨学金を目指して4教科の勉強もしていました。(W.Hさん)
Q4 「ナゾ解き入試」を実際に受けてみた感想は?
・謎検型は、1問解いたら簡単で、これはいけると思ったのですが、最後の問題が、どこに組み合わせてもあてはまらなくて、難しかったです。脱出ゲーム型は、色々な人の意見を聞いてチームで行うのでやりやすかったです。ナゾ解きはやわらかい発想力が必要だと思います。(S.Kさん)
・最初は簡単そうと思っていましたが、入試が近づくにつれて自信がなくなってしまいました。当日は、最初の問題は簡単だったのですが、最後のパズルを解いて文字を完成させる問題が難しかったです。脱出ゲーム型は、知らない受験生同士で最初は何を話したらいいのかわからなかったのですが、だんだん喋るようになって解くことができました。ナゾ解きは仲間と仲を深められるものだと思います。(W.Hさん)
Q5 「ナゾ解き入試」のために何かしましたか?
・説明会で紹介された本を帰りに注文して、その本を何回かやりコツをつかむようにしました。(S.Kさん)
・スマホで「謎解き 問題」と調べて何回も解いてみました。(W.Hさん)
Q6 入学しての感想は?
・先輩が気軽に話しかけてくれてとても雰囲気がいいと思います。入学当初も、私たちのクラスまで来てくれて笑わせてくれました。バスケの部活体験で、先輩がナゾ解きの体験問題を作ったと聞いてすごいなと思いました。(S.Kさん)
・先生の授業はとてもわかりやすいです。また先生と生徒の距離が近くて気軽に話せるのがいいと思います。小学校のミニバス時代からの憧れの先輩が高校にいるので一緒に練習がしたいです。バスケ部の先輩は、皆とても面白くて毎日が楽しいです。(W.Hさん)
Q7 ふじ活(探求)の授業はいかがですか?
・私たち生徒が先生に授業をするという時間があります。自分の好きなことやアイドル、キャラクターを発表するので、とても楽しいです。私のグループは今後、地球グミとK-POPアイドルを発表します。(S.Kさん)
・私のグループには、うどんが好きな子がいて、私もうどんが好きなので、うどんについてやります。文化祭は、ナゾ解きをやると聞いています。(W.Hさん)
Q8 将来の夢はなんですか?
・ちゃんと決めたわけではありませんが、母が美容師と理容師の免許を持っていて、小さい頃から母の働く姿を見ていたので、美容、理容方面を考えています。(S.Kさん)
・3歳頃からバスケの試合を見て、小学2年生からバスケを始めました。将来はバスケットボールの選手になりたいです。(W.Hさん)
Q9 来年の受験生へのアドバイスもしくはメッセージをお願いします。
・これまでの考え方とは違う、教科が苦手な人でも取り組みやすい入試ですが、小学校の基礎の勉強はしっかりやっておくことは大切です。(S.Kさん)
・中学受験の問題集を何度もやって、間違えたところやわからなかったところは解説を読んでしっかり覚えれば大丈夫だと思います。(W.Hさん)