「賞品の図書カードでマンガ雑誌を一生分買いたかったから」と小学4年生の時に応募した作品が『12歳の文学賞』大賞を受賞した鈴木るりかさん。中学校2年生で出版した初の短編集はたちまちベストセラーに。以来、私立の中高一貫校に通いながら執筆を続け、これまで4冊の単行本を上梓してきました。現在は高校3年生の鈴木さんに、中学受験の思い出やこれから中学を受験する後輩たちへのメッセージを語っていただきました。
小4で初めての小説を書き上げた際の感想は?
小説という形で書き上げたのは、初めてでした。しかも、半日で書き上げざるを得なくて。というのも、「12歳の文学賞」の締切日に気が付いたのは当日の朝のことだったからです。それから一気に書き上げて、夕方、母に郵便局で出してきてもらいました。その時の気持ちは、書き上げられて締め切りに間に合ってよかったと、ただそれだけ。小説としての完成度や評価は、全く考えていませんでした。
中学2年生で小説家としてデビューされて、いかがですか?
いつかは本を出したいと夢見ていましたが、当初、中学2年生と言うのは自分でも「まだちょっと早いのでは」と思いました。出版しても、読んでくれる人はあまりいないのではないかと。ところが実際に出版してみると、想像以上に反響が大きくて。それでようやく「小説家になったんだ」と自覚しました。本を出したことで、普通の中学生だったら絶対に出会えなかったような方々にお目にかかることができました。読者の皆さんから、感想や励ましのお手紙もたくさんいただいています。あまりの反響に戸惑った時期もありましたが、今は「本を書いて本当によかった」と思っています。
中学受験されていますが、志望校はどうやって決めたのですか?
受験を考えたのは小学校6年生になってから。塾に通い始めたのも6年生の4月からです。その頃すでに出版の話がでていましたので、志望校は「高校受験を気にすることなく小説の執筆に取り組める環境」ということで中高一貫校に的を絞りました。両親の「女子校に通わせたい」という希望や、家から通いやすいなどの条件を考慮に入れて、学校を決めました。
入試問題に作品が採用されているそうですね?
数校で採用されています。送られてきた問題を拝見すると、私の作品をとてもよく読み込んでくださっていることが分かります。試験問題というのは、時間をかけて深く作られているのですね。なかには、私自身があらためて気づかされる箇所もあります。
新タイプ入試をどう思いますか?
個人的には大歓迎です。でも、教科型の入試も決して悪くないと考えています。教科型の入試は「知識詰め込み型」と批判されることがありますが、知識を詰め込むことも容易ではありません。それも、その子が努力した証だと思います。新タイプの入試が合う子もいれば、教科型のテストで力を発揮できる子もいます。今後も新しい型の入試がどんどん登場してくると思いますが、選択肢が広がることは、学校にとっても受験生にとってもよいこと。これから受験する皆さんが、それぞれ自分に合った入試方法を選択できるのはいいことだと思います。
生徒の夢をサポートする存在としての学校の役割は?
夢に向かって努力し続けても、夢がかなうとは限りません。夢がさめて、色あせることもあるでしょう。そのような時は、夢への熱意を失わないように後押ししていただけるとよいですね。また、夢の実現が難しくなったら、夢を変更できるような指導もあると嬉しいです。私たち中学生・高校生は未熟で視野も狭く、自分で自分を追い込み極論に走ることもあります。適切な方向へ進むことができるように、考え方や手段、別の視点などを示し導いていただけると理想的です。
小説家デビューという夢をかなえた後輩へのメッセージは?
夢は変更してもいい、いくつ持っていてもいい。どんなに努力しても達成できず夢が破れることがあっても、いいのです。夢は日々を生きていく原動力。夢を追いかけるなかで得た気づきや学びが、次の新たな夢へつながることもあります。ぜひ、結果よりも過程を大事にしてください。
子ども達の好きなことをさせてあげたい
中学生の鈴木るりかさんを小説家デビューへと導き、現在に至るまで小説家として育て続けているのが片江編集長です。ご自身も鈴木さんと同世代の二人の娘さんを持つ片江編集長は、鈴木さんの成長をどのように見守ってきたのでしょうか?お話を伺いました。
編集者として鈴木さんを見守るうえで大切にされていることは?
「書くことが楽しくてしかたがない」。最初に会った時に、るりかさんは私にそう言いました。彼女が小学校5年生の時です。6年生になって会った時も、彼女は同じ言葉を口にしました。その「書くことが楽しい!」という気持ちをそのまま持ち続けていられるように、伸び伸び書いていただき、それを見守らせていただこう。とにかく、そのことを一番に心がけています。
学校生活と執筆活動の両立については、どうお考えでしたか?
学校生活を楽しく過ごすなかで、るりかさんが自発的に「書きたい」という気持ちになってくれることを尊重しています。特にるりかさんの作品は、彼女が年齢相応の充実した毎日を送るなかから生み出されてくるものです。ですから、執筆のために学校をおろそかにするようなことはしていません。常に学校が最優先。テスト期間でしたら「テスト頑張ってね」です。
鈴木さんの将来をどのように思っていらっしゃいますか?
私の考えですが、必ずしも職業としての「小説家」という道にまっすぐ進まなくてもいい、大学を卒業して普通に就職してもいいのでは、と考えています。できれば、その間も無理のない形で書いてもらえると嬉しいですが…。これからは、そうした新しいスタイルの作家がいてもいいと、私は思っています。
中学入試を考える方々へのメッセージは?
私が自分の子育ての時に強く思っていたのは「子ども達には、とにかく好きなことをさせてあげたい」という気持ちでした。そのためにも、新タイプ入試のように入試の選択肢が増えていくのは、好ましいことだと思います。私が心がけていたのは「時間が無くても娘とよく話をして、娘のことをよく見て、娘が好きなことを見つけて、その道に進んでいけるように、その手助けができれば」ということでした。保護者の皆さまも、お子さんの芽を摘むことなく、お子さんの「好き」を育まれるといいのではないでしょうか。
※写真撮影時のみマスクを外していただきました。
2003年、東京都生まれ。小学4年、5年、6年時に史上初となる3年連続で、小学館主催の『12歳の文学賞』大賞を受賞。2017年10月、14歳の誕生日に『さよなら、田中さん』でデビュー。10万部を超えるベストセラーとなり、韓国や台湾でも翻訳される。2018年に地方の中学を舞台にした2作目の連作短篇集『14歳、明日の時間割』を、2019年にデビュー作の続編となる『太陽はひとりぼっち』を、2020年には同じく続編の『私を月に連れてって』を刊行。現在、都内の私立女子高校3年生在学中。
『今読みたい太宰治私小説集』
「小さい頃から大好きだった、老舗の和菓子屋さん。誰もが『美味しい』と認めながらちょっとイマドキ感には欠けるかな、というおやつをポップでカラフルなボックスに詰めてイマドキの手土産に変身させたように。これからもずっと読み継がれていって欲しい昭和文学の名作を新しい目線での文芸作品として、リニューアル刊行できないか」。常日頃から、そのような想いを温めていたという片江編集長が、太宰治の私小説を「今」に蘇らせました。
収録されているのは、『帰去来』を始め太宰の人間くささが際立つ5作品。「コロナの閉塞感がある中、若い世代は太宰作品をどう感じるんだろう」という思いから、現役高校生作家の鈴木るりかさんに初めて解説原稿を依頼したという片江編集長。「現役受験生でもあるるりかさんが太宰治の文章から、感じ取ったもの。それは『希望』。確かに、『希望』をもって生きていきたくて、人間くさくて、みみっちくて、情けなくて、でも愛さずにはいられない、体温を感じるような太宰治が、この小説集には存在しているのです」。
本の印象を決める装画の描き手は、若い世代に大人気のファンタジックなイラストレーター六七質さん。鈴木るりかさんと六七質さんのコラボで、かつてない太宰治の一冊に仕上がっています。教科書の文学史でしか太宰治を知らない人々も、太宰を身近に感じること間違いなし。この機会に、親子で太宰治や昭和文学の魅力に触れてみてはいかがでしょうか。