桐朋女子の「A(口頭試問)入試」は、教育の根幹である「Leaning by doing」を実践する同校の授業の1時間目です。

A(口頭試問)入試

桐朋女子の教育の根幹は「Learning by doing」。「為すことによって学ぶ」という意味です。そのため、学習はもちろんのこと、部活動にも学校行事にも、委員会活動にも「本気で取り組む」気風があります。卒業生が言っていました。「頑張らないことはダサい」と。「結果ではなくプロセスを大切にする」「ことばの力を創造力に」を教育目標とする同校は、豊かな創造力を涵養する土台として主体性と協働性を丁寧に育み、対話を重ねながら「生きる姿勢」をつくる学校なのです。そんな同校が伝統的に実施している入試に、「A(口頭試問)入試」があります。50年以上も続く「口頭試問」という稀有な入試は、同校が実践する教育の象徴でもあります。この入試について、中1の星茅花(ちか)さんと高2の太田徠未(くるみ)さんに伺いました。

■入学して授業を受けたら、「口頭試問」そのものでした

高2の太田徠未さん(左)と中1の星茅花さん
※撮影時のみマスクを外していただきました。

最初に、なぜ「A(口頭試問)入試」を受けようと思われたのか、そのきっかけから教えてください。

星さん「私はもともと人と対話することが好きで、小学生の頃から調べ物をしたり文章を書いたり、意見をまとめて発表することも得意だったので、自分に合っているかなと思って受けました。父が編集の仕事をしているので家が本だらけで、そういう環境も影響していたのかもしれません。教科でも国語や音楽、図工など、自分を表現するようなものが好きでした。あと、桐朋の近所に住んでいるのですが、卒業生に素敵な方がたくさんいると母が桐朋を推していて(笑)。それまでは中学受験を考えていたわけではないんですが、自分でもいろいろ知っていくうちにこの学校にすごく魅入られて、受験したいと6年生から2カ月間塾に通いました」

太田さん「私は逆で、1対1で話したり面接とかは得意ではなかったんですが、どうしても桐朋に入りたくて受けました。初めて学校見学に来たのは小5の時でしたが、その時はまだ中学受験をすることを決めていなかったんです。でも、小6の5月に親に誘われて体育祭(※)を見に来たら、先輩方の一生懸命競技に取り組んでいる姿がすごく印象的だったのと、学年ごとに披露する一糸乱れぬ『応援交歓』に圧倒されて、『私も来年、絶対にこの舞台に立ちたい!』と思ったのが受験への決め手でした(笑)」

※6色に分かれて学年対抗で行われる体育祭は、生徒たちが最大限に盛り上がる学校行事。勝利にこだわって戦略を考え猛練習に励むなど、その熱意と努力は、まさに「半端ない」もの。在校中のチームカラーの下に築かれた絆は、卒業後も長く続くという。

では、受験に向けてどのような準備をされたのでしょうか。また、実際の試験の時の様子をお聞かせください。

星さん「自分で学校のことをさらに調べたら、もっと入りたくなって筆記試験の過去問に取り組み始めたのですが、初めて算数の過去問を解いた時は0点でした(笑)。でも、ノートまとめも得意なので、やり直しを何回も丁寧にやりました。通っていたのは桐朋への合格者が多い塾だったので、1対1で口頭試問の対策もしてくれましたが、本番の試問ではやっぱり緊張してしまいました。試問中は先生と目線を合わせるとか、塾で教わったポイントをちゃんと押さえようと思っていたんですが、でも、話していくうちにだんだん楽しくなってきて緊張も解けました」

太田さん「小学生の時は外で遊んでばかりいて、勉強はそんなに得意ではありませんでした(笑)。小6で体育祭を見て衝撃を受けた後、実際に過去問を解いてみたら、私も算数が0点でした(笑)」

星さん「本当ですか? 親しみを感じてしまいます(笑)」

太田さん「(笑)。そして星さんと同じで、学校のことをさらに調べたらもっと入りたくなり、国・算を基礎からちゃんとやろうと思って、小6の7月から塾に通い始めたのです。どうしても桐朋に入りたかったので努力することができましたね。口頭試問があることは小5の時の学校説明会で聞いて知っていましたが、体育祭を見て受験を決めたので、そこからはけっこう焦って(笑)。口頭試問の前には40分間授業が行われますが、そこでは先生が黒板に書くことはあまりなく、自分でちゃんとメモをとらないと授業の理解が追いつかなくなります。そこで、小学校の授業では先生が黒板に書いていないことでも、大事そうだなと思うことはノートにメモをとるように意識しました。口頭試問の本番ではすごく緊張しましたが、思っていたより先生方が優しかったので(笑)、少しは落ち着いて答えられたような気がします」


■桐朋女子「A(口頭試問)入試」の入試要項とポイント

試験日:2025年2月1日(土)
募集人数:約130名
試験内容:口頭試問(口頭試問準備約40分・試問約15分)
     筆記試験(国・算/各45分)

【口頭試問】
入試の狙い  
❶小学校で学んだ知識量や解答の正否のみを見るのではなく、初めて学習する
ことにも積極的に興味を示し、学んだ内容を整理・分析して、質問に応じて新
たな方向へ広げることができるか。
❷思考の過程を自分の言葉で表現できるか。答えを確認しながら、正否にかかわ
らず「どうしてこう考えたのか理由を言ってください」と、その答えにたどり
着いた道筋を見る。
❸口頭試問の最中に間違いに気づいた時、答えにたどり着くために、どのくらい
柔軟に、粘り強く考えることができるか。

準備行程&試問
❶最初に授業形式、またはビデオ視聴などの準備時間があり、これをもとに20
〜30名のグループでいくつかの課題に取り組む。
❷授業テーマは理科的なもの、社会的なものとさまざまだが、なるべく受験生が
同じスタートラインに立てるように、小学生が「初めて見聞きする」であろう
ものを設定している。
❸試問は生徒一人に対して複数の教員が行う。試問室では質問するだけではな
く、答えのわからない受験生に対してはわかるようにヒントを与えるため、正
答にたどり着く達成感も体験することができる。
入試の対策など
❶特別な準備は不要。小6として身につけておくべき基本的な生活知識があり、
基礎的な勉強をきちんとしておくことが大切。例えば、読書をしたり家族と会
話をしたり、世の中のさまざまな出来事や問題を自分なりに考えたり、まとめ
たりすることも有効。
❷「なぜそう考えたのか」を確認していくため、「口べた」な受験生が不利になることはない。

【筆記試験】
漢字の読み書きや四則計算など、日頃の学習で基礎を身につけておくことが重要。また、国・算ともに、じっくりと文章を読み、理解する力を求められる。ちょっと考えさせる問題でも、プロセスをきちんとたどっていけば解答できる。

●口頭試問準備室の授業動画はコチラ
https://chuko.toho.ac.jp/topics/tpc-36223/

●2025年度の「口頭試問」の課題用紙

4題あるうちの「課題1」より

●筆記試験の2024年度「国語」の過去問はコチラ
https://chuko.toho.ac.jp/pdf/2024kokugoA.pdf

●筆記試験の2024年度「算数」の過去問はコチラ
https://chuko.toho.ac.jp/pdf/2024sansuA.pdf


この「A(口頭試問)入試」は桐朋女子の教育を象徴する入試ですが、実際に入学されて、勉強面はどんな感じですか?

太田さん「テストや課題が多くて、入ったばかりの頃は小学校とのギャップに戸惑いました。入試では算数が苦手だったので『受かりはしたけど、ギリギリで入ったのかな……』と心の中で思っていて。でも、勉強についていけないのは嫌だからみんなの2倍頑張らなくちゃと、そこから勉強を頑張り始めました。テストが多くて大変でしたが、でも、今では授業がとても楽しくて『この環境にいるからこそ、自分が勉強できるようになっていく』という楽しみも生まれました。本当に、桐朋に入ってよかったなと思っています。教科では、とくに英語が好きです。私が入学した当初はコロナ禍で配信の授業だったのですが、先生方がノリノリで教えてくれたのがすごく楽しくて、そこから好きになりました」

星さん「入学して初めて授業を受けた時は、『口頭試問』みたいな感じで、ちゃんと話を聞くという姿勢で取り組みました。普段の授業も、人の話をちゃんと聞いて、対話しながら進めていくというか。授業では数学が好きです。小学校の算数は『式に当てはめる』ことだけをやっている感じでしたが、数学はただ解くだけでなく、発展問題とか『自分で考える』ことがおもしろくなってきたんです。あと、体を動かすことが大好きなので体育も好きです」

■日々の学校生活の中で、 主体性と協働性が育まれます

部活動や委員会活動など、日常の学校生活についてもお聞かせください。

星さん「私は陸上部です。小さいころから体を動かすのも走るのも大好きで、年少から小6まで8年間体操教室に通っていました。桐朋に入って、体育祭で8K(※)のリレー・メンバーに選ばれたのですが、みんなで昼休みに集まってバトン・リレーの練習をしたのが楽しかったです。でも、今年は負けてしまったので、リベンジするためにも6年間通して8Kであり続けたいと強く思っています。陸上部の活動はガチガチに厳しいわけではないんですが、私自身、部活がめちゃくちゃ好きで、友達もすごく部活が好きで、大好き同士で日曜などに一緒に自主練もしています。部活プラス自主練で、力にもなるしモチベーションも上がるし、そのあとにお菓子を食べながらおしゃべりする時間も楽しいです。今日もこれから、友達と自主練です(笑)」
※「8K」とは学年で最も足の速い8人が100mずつ走る、体育祭の最後を飾る種目。8人で継走するので、「8K」という。

太田さん「中1から高1の始めまでバレーボール部に所属していたのですが、大学受験の準備に専念するために辞めました。部活を決める時は、最後まで小学校の頃にやっていたバドミントンとバレーで迷いました。私が中学に入学したのはちょうどコロナ禍が始まった時で、自粛期間中に送られてきた部活紹介動画を見てみたら、バレー部の雰囲気が楽しそうで『私もこの中に入りたい』と思って入部しました。大会に出るなど、わりと強い部活なので練習もけっこうハードでしたね。アッタクをたくさん打ってもらって、必死でレシーブする練習とか。サポーターをつけていても途中でずれちゃって、アザだらけでした(笑)」

お二人のお話からは、学校生活を堪能されている様子が伝わってきますが、今後やりたいことや、ご自分の未来像についてはいかがですか?

星さん「目標の一つは、桐朋での6年間、陸上をやり通すことです。あと、K-POPや韓国ドラマが大好きなので韓国語を学ぼうと思っていて、卒業する頃には話せるようになっていたいなと思います。韓国の食べ物も好きだし(笑)。家ではガールズ・グループのTWICEとかをかけて、自分の部屋で振りを真似てダンスしたりもしています。将来については海外に行って新しいものを見つけて、それを広めたりしたいですが、体育が好きなので体を動かす系の大学もいいかなと思ったり、まだ決めきれません」

太田さん「小学生の頃からの夢なんですが、アナウンサーになりたいと思っています。災害時など、誰でもテレビをつけますよね。その時にアナウンサーが『落ち着いてください』『逃げてください』と緊迫した状況を自分の言葉で伝え、多くの人を助けることは素晴らしいと思って。それと、保育園の時の友達のお母さんが桐朋の出身でキャスターになられた方なんですけど、桐朋で学んだ方が社会で活躍されている姿を間近に見て、私もそうなりたいと思ったんです。大学は英語系かメディア系、法学系を考えていますが、夢への第一歩として今、勉強を頑張ろうと思って塾にも通っています」

それでは最後に、受験生へのアドバイスやメッセージをお願いします。

星さん「受験生にとって大事なのは、まず日頃の生活を一度改めることです。私は、6年生まで早寝早起きがめちゃくちゃ苦手だったんですけど、受験期になると早寝早起きとかきちんと食事をとるとか、生活のリズムを整えないと頭も冴えません。勉強の基礎だけじゃなくて、自分の生活の基礎を固めることで、視野も広がっていくと思います。あと、私の場合は兄と姉が中学受験を経験していたので勉強を教えてもらったり、姉も高校受験が同じタイミングで頑張っていたし、父や母も積極的に協力してくれたのでありがたかったです」

太田さん「受験が近づくにつれて焦ってしまって、生活リズムも崩れがちになると思うんですね。私は受験直前にマイコプラズマ肺炎にかかってしまい、1週間寝込みました。そういうことにならないためにも、体調管理を第一に気をつけてほしいです。それから口頭試問は桐朋独自の試験なので、どう対策すればいいんだろうとか、喋るのが得意じゃないから大丈夫かなと思う人がたくさんいると思うんですけど、でも、そんなに不安に思わなくても大丈夫です。小学校での勉強をちゃんとやって、普段から周りのことに目を向けていれば絶対大丈夫なので、怖がらずに挑戦してください。あと、私は口頭試問を想定して、父や母と小学校生活で楽しかったことなどを話す練習をしました。私は来年高3ですから、桐朋にいるのはあと1年間しかありませんが、みなさんに会えることを楽しみにしています!」

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「口頭試問入試」作問担当の司書教諭・鈴木素子先生に聞きました

●「A(口頭試問)入試」とは?

鈴木先生「同じ方向を向いていても、教員によってそれぞれ作問のアプローチは違うと思いますが、私は、人の話をきちんと聞けて対話できる、まさに今ここにいる2人のような人たちに入ってきてほしいという思いで問題を作っています。A入試では筆記もありますが、筆記だけでは測れない、受験生がどのように取り組んだかという過程を口頭試問では見ることができます。どんな試験かよくわからないからと敬遠されるかもしれませんが、小学校の勉強にしっかり取り組み、授業では話をきちんと聞いてノートをとるといった基本姿勢が大事になってきます。あとは、答えを間違ってしまっても、試問の際にこちらが誘導した時に訂正する力があるか、気づきができるかどうかというところを見るのも口頭試問の特徴だと思います。また、準備室での授業の際に自分できちんとメモしていても、口頭試問では緊張して言葉に詰まることもあります。そんな時『じゃあ、メモを見てみよう』などといったやり取りができるのも口頭試問の良さですね」

●作問で先生が意識していることは何ですか?

鈴木先生「私が昨年の問題を作った時は、改めて口頭試問らしい口頭試問、つまり口頭試問の良さが前面に出るような問題にしたいという気持ちがありました。文章を多く書かせるというよりも、実際の試問で受験生とやり取りするところをイメージしながら作りました。最終的に大事にしているのは、たとえうまくできない部分があったとしても、受験生がどんよりした気持ちで帰っていくのではなく、『今日は新しいことを知れたな、なんか楽しかったな』と思ってくれるようなテーマ、試問にしたいと思っています」

●入学後の、桐朋女子での学びについて教えてください。

鈴木先生「何よりも自分の頭で考え、行動することが大事です。たとえ、間違えたり失敗したとしても、そもそも中高の6年間というのは、失敗してもいいので何でも思い切りやってみる時です。『失敗してナンボ』ですから(笑)。ただ、自分で我が道を行ける生徒、目の前のつまずきそうな石をちょっとどかしてあげたほうがいい生徒、少し試練を与えたほうが伸びる生徒などさまざまですから、裏では教員たちが一人ひとりを見ながら対応しています。すべて事前に平地にしておいたほうがこちらは楽ですが、そこをグッと堪えて、多少のデコボコをつけて学ばせ、失敗してもそこから這い上がってきてほしい(笑)。『自分でできた』という成功体験を持たせたいのです。そのために、私たちも日々学んでいます。私たちは長くて6年間しか生徒を見てあげられません。卒業後の人生のほうがずっと長いわけですから、私たちの役目は生徒一人ひとりが豊かな創造力を持ち、なりたい自分になるための土台を作ることです。それが、本校で昔から言い継がれている「生きる力」の育成でもあります。

八ヶ岳高原寮では、学年の結束を強固にする合宿や部活の合宿が行われる
取材Memo

桐朋女子には、自ら進んでチャレンジを続ける生徒たちと、対話しながら、そのプロセスに寄り添う先生方がいます
今は国・算の筆記試験も加えた「A(口頭試問)入試」に形を変えていますが、口頭試問のみ、しかも一人の受験生に対して複数の先生が2日間をかけて試問を行っていた時代もありました。このように対話しながら、そのやり取りの中で生徒が自分で新たな気づきを得ていくのが桐朋女子の教育風景です。類稀な入試ではありますが、入試要項を見てみると「A(口頭試問)入試」の募集定員がダントツに多いのも、同校の揺るがぬ教育哲学を物語っています。50年以上も前に通知表を廃止して面談で成績を伝え、高校になると進路を見据えて自分で時間割を作成するのも大きな特色。卒業生が言っていました。「楽しさと忙しさと大変さがいっぱいあったことがよかった。桐朋での生活が今の私の基準になっている」「桐朋時代はリーダータイプではなくても、社会に出ると、いつの間にか場を仕切り、推進役になっている人が多い」と。今回登場してくれた生徒さんお二人も、自分のことばで丁寧に語ってくれましたが、その真摯な眼差しと溌剌とした笑顔が、本当に「桐朋生」らしいなと感じました。

同校の多彩な学校行事は、生徒主体で企画・運営されますが、
なかでも、学年対抗で行う体育祭は生徒たちの熱量が最大限に放出される行事です。
学年が一体となる名物の「応援交歓」(上の写真)や、3人4脚、2人3脚、2人2脚、
1人1脚でたすきを繋ぐ「足の歴史」、曲に合わせて身体表現をする「団体徒手」など
工夫を凝らした団体種目も多く、運動が得意でない生徒も意欲的に取り組める構成です。
下級生は上級生に勝つ「下克上」を目指し、上級生もまた下級生に負けまいと、
擦り傷を作りながら練習し、綱引きのために体重を増やし筋肉をつける生徒まで!
学年色の6色は6年間継続しますが、同じチームカラーの
6学年上の先輩から引き継いだ秘訣もあるのだとか。
ちなみに、ハッシュタグで「世界一の体育祭」と入れると、桐朋女子が出てきます。
ぜひ、ご覧になってみてください。