桐朋女子中・高等学校は、1970年代から、つまり50年前から、定期試験や点数制の通知表のない教育を実践しているユニークな学校です。「テストは判決ではない。レントゲンである」とは、約26年にわたって校長を務めた第6代校⻑の⽣江義男氏の言葉。定期試験は1969年に廃止され、通知表は1970年に廃止、成績の通知は生徒が自分を振り返って書いたコメントをもとに先生と面談する「成績伝達⾯談ノート」で行われます。
そんな桐朋女子中・高等学校の入試は、新タイプ入試が話題になる前から口頭や記述を重視したもの。それはA入試の口頭試問というテストに表れており、A入試の口頭試問は、ミニ授業を準備室で受けながら4〜5問の課題に回答した後、別の部屋(試問室)に移り、先生(試験官)からその回答についてどう考えたのかを試問される試験です。
口頭試問では、水、冷凍食品、開発途上国などがテーマとして取り上げられ、小学生でも耳にしたことがある身近なものについての問題が授業を通して出題されます。授業をしっかり聞いていれば答えられる問題からはじまり、だんだんと聞いたことをまとめる問題や、自分の考えを加えなければ答えがつくれない問題へとレベルアップしていきます。例えば、冷凍食品はマイナス18度以下で急速に冷凍したものとミニ授業では教えますが、ではなぜ家の冷蔵庫で冷凍したものは冷凍食品にはならないのか、という風に授業で聞いたことを踏まえて自分の頭で考えなければならない問題にレベルアップしていきます。
口頭試問は、これまでに学んだ知識で反射的にこたえるのではなく、「新しいことに積極的に興味を示し、学んだことを整理・分析・判断して、質問に応じて新たな方向に広がられるか」「考えた過程を自分の言葉で表現することができるか」「途中で間違いに気づいたとき、粘り強く考え答えにたどり着こうと努力できるか」を見るテストです。
今回は、英語入試について取材をさせていただきましたが、桐朋女子中・高等学校の「Creative English入試」は、口頭試問の流れを組むものであり、まず口頭試問はどんなものなのかご紹介させていただきました。口頭試問の紹介動画は、学校のホームページにアップされているのでぜひご覧ください。
英語で口頭試問が行われる「Creative English入試」
英語の会話を聞いたり映像を見たりして課題に答えていく、英語で口頭試問を行う試験です。30分の準備課題の時間を経て、別室のインタビュールームで先生からの試問に英語で答えます。「Creative English入試」は、英語1教科で受験できますが、英語を話せるというのではなく、「映像をヒントに、流れていく英文を理解し、課題に答えることができるか」「与えられたテーマに関する英文を40~50語程度で書くことができるか」「絵や与えられた単語をヒントにして、自分が知ってる英語で学んだ内容を再現できるか」「英語で積極的にコミュニケーションを取ろうとしているか」など、Listening,Speaking,Reading,Writingの4技能が求められます。特にWritingは、理解したことや自分で考えたことを英語で書くことが求められますので、短い文章でも構いませんので練習を積み重ねると良いでしょう。
入試の名称がCreative Englishとなっているのを不思議に思う方もいるかもしれません。自分の頭の中でひらめいた考えは、それがどんなに独創的なものであっても、そのままでは他人には伝わりません。ことばを用いてそれを発信してはじめて、それは理解され、その独自性も認められるのです。将来社会に出て自分の独創性(クリエイティビティ)を発揮するためには、それを伝える道具(ツール)として確かな言語運用能力が必要で、現代のグローバル社会では、そのような英語力を身に着けることが非常に重要になるのです。
桐朋女子中・高等学校は、生徒が自分の頭で考え、それに基づいて行動することを大切にする学校です。Creative Englishの試問でも、ぜひあなたが考えたことをしっかり英語で表現してください。
「Creative English入試」の紹介動画は、学校のホームページにアップされています。ぜひご覧ください。
定期試験なし通知表なし、それよりも生徒との対話。
通知表にならぶ数字だけでは見えないこともある。例えば同じ「4」でも、あと1歩で「5」になった「4」もあれば、逆に「3」に近い「4」もある。大切なのは単なる数字の評価ではなく「どう考えたかや、なぜ考えられなかったのか」。桐朋女子中・高等学校が、通知表を1枚渡せば終わるのに、生徒ひとり一人と何十分もかけて対話をするのは、“自分”をことば化することによって、考えていることが初めて外に出て、そこから“次”という未来が生まれるから。ライバルは点数でも他人でもなく“自分”。そんな自分を常に見つめるために「ことばの力」を重視することが桐朋女子中・高等学校の校風であり伝統です。
教えて!学校のこと 試験のこと
「Creative English入試」で受験したR.Kさん(現中学1年生)に試験のことをお聞きしました。
Q1 中学受験を考えはじめたのは何年生のいつ頃ですか?
小学5年生の1月です。ニューヨークでの生活が2年を超えて英語力が少しついたかなと思ったのが、英語で受験をしてみようと思ったきっかけです。
Q2 「Creative English入試」をどこで知りましたか?
桐朋女子のホームページです。
Q3 「Creative English入試」を受験するための準備をしましたか?
桐朋女子のホームページに載っている過去問題を解いたり、父とスピーキングの練習をしたり、英検にチャレンジしました。
Q4 なぜ「Creative English入試」を選んだのですか?
これまでに身につけてきた英語力と、海外で経験したことを活かせるチャンスだと思ったからです。
Q5「Creative English入試」を受験した感想は?
緊張はしましたが、先生が優しく接してくださったので、思ったよりリラックスして臨めました。自分ではうまく答えることができたと思います。
Q6 来年の受験生へのアドバイスもしくはメッセージをお願いします。
難しい単語や文法の知識は必要ありません。日本で英語を勉強している人でもチャレンジできる試験だと思います。あまり肩に力を入れず、自然体で試験を受けてください。
- 取材Memo
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「ことば」は、アイデンティティであり、履き物です。
「人はことばを通してしか考えられません。そして人によって、同じことを伝えるのでも、選ぶ『ことば』は異なり、その人を現わすアイデンティティとなっています」とは取材でお話をお聞きした英語科の熊野先生。また「『ことば』は履き物のようなもので、スニーカーを履いている時と草履を履いている時では歩き方が異なるように、話す言語によって論理の展開や進み方が異なることがあります」とも。なぜ言語で異なるのか、それは主語述語の関係、人称、文化など、その理由はわかりませんが、確かに「ことば」はその人を表し、一生のパートナーとして大切にしなければならない根源的なものだと改めて感じ入りました。