「M型」「ものづくり」「難関(2022年よりグローバル思考力特待に名称変更)」の3種を実施する、「思考力入試」の先駆校、聖学院中学校。

思考力入試

すべては「Only One for Others」の具現化のため。

自分を生かし、他者を生かす共生の心で世界に貢献する生徒を育成。

1906年創立のミッション系男子伝統校。毎日の礼拝や聖書の授業、L.L.T (Learn Live Together/命の大切さや共同体の構築を学ぶ独自の授業)など、キリスト教精神に根ざした「人間教育」を土台に、世界標準の21世紀型教育の推進校として「思考力」「判断力」「表現力」「協働力」など、次代に活きる総合力を育んでいます。

スクールモットー「Only One for Others」には、「自分らしさ(神様から頂いた賜物)」を自ら見出し、その賜物を用いて「他者のために、世界のために貢献する」という意味が込められていますが、その精神は創立以来継承される同校のDNAでもあります。その「オンリーワン教育」と「探究PBL型教育」「グローバル教育」が同校の教育の3本柱。

そして、さまざまな角度から「Only One」を発見したいと、校内外に多様な機会を豊富に設けていることも大きな特徴です。男子の特性を活かした丁寧な教育を展開しているため、学年を追うにつれて視野を大きく広げ、学校外に飛び出して主体的に活動し始める生徒も少なくありません。

「思考力入試」は3種3様。

3種類の試験のそれぞれの特徴と、合格者の声を聞く。

約10年前のこと。旧来の知識を問う教科型学力だけでは急速に変化する社会動向に対応できなくなると、同校は数年の準備期間を経て、2013年からいち早く「思考力入試」をスタートさせました。次代に必要とされる「課題解決能力」を育てるためです。テクノロジー、サイエンス、デザインなどを連関させながら21世紀の実学を作り上げようと、SFC(慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス)を立ち上げた慶應義塾大学のように、ちょうど大学入試でも総合型の入試が注目され始めた頃でした。

そして現在、同校の「思考力入試」には以下の3種類があります。

<聖学院の「思考力入試」の歩み>

2013年 ❶「M型思考力入試」スタート(当時の名称は「思考力+計算力入試」)

2016年 ❷「ものづくり思考力入試」スタート

2018年 ❸「難関思考力入試」スタート

2021年 「M型思考力入試」リニューアル

❶「M型思考力入試」(※)

…「観察するのが好き」な受験生向け

写真やグラフなど、さまざまな資料を提示。そこから感じたことや比較して気づいたこと、自分との関わりなどを作文にする試験。情報の取り出し方、比較、分類など理論的な思考力が問われます。

※「M」には、「Meta認知(物事を俯瞰して見る力)」「Metamorphose(変容・変化)」「Mathematics(グラフの読み取りなど)」という意味が込められています。

「M型思考力入試」の合格者の声:S.Hさん(中1)

僕はニュースに興味があり、絵を描くことや国語が好きだったので、自分に向いていると思い受験しました。受験前は問題文と資料を見れば答えは出せると思っていましたが、実際の試験では感じたことやそれに対する考えをその場でまとめなければならなかったので、思ったより難しかったです。でも、小学校の社会の授業で教わった農業の話が参考になり、自分の考えやイラストを描くことができました。事前に参加した「思考力セミナー」は、場の雰囲気に慣れるという意味でもとても役立ちました。また、日頃からニュースや活字に触れておくと知識も増えるし、文章から引き出せる情報も増えるので、良い試験対策になると思います。

❷「ものづくり思考力入試」

…「ものづくりが好き」な受験生向け

ブロックを使った試験。設問に対して自分なりの答えをブロックで形作り、なぜそれを作ったのかを作文にします。情報を読み取る力や物事への探究心、表現力や伝える能力が問われます。

「ものづくり思考力入試」の合格者の声:A.Nさん(中1)

小さい頃から物を作ったり文章を書くことが好きだったのですが、「思考力セミナー」に参加したのがきっかけで受験を決めました。試験ではグレタ・トゥーンベリさんやSDGs、気候に関する問題が出ましたが、僕は使えなくなったスマホやICチップをリサイクルし、薬品に変えて人工の雪を作るという解決策を考えました。雪を作ることによって、日照りや酸性雨の被害をなくせると思ったからです。また、二酸化炭素をエネルギーに変換するアイディアも解答しました。普段から家族で報道番組を見ているのですが、そこでたまたま知ったゴミのリサイクル問題がヒントになったのです。父がニュースをもとにいろいろ問題を出してくれたのですが、それが試験対策になりました。

❸「難関思考力入試」(※)

…「難しくて楽しいことが好き」な受験生向け

情報を扱う力に加え、創作表現、文章表現、口頭表現まで総合的な思考力を問う試験。「ものづくり思考力入試」同様、ブロックを使用しますが、その前に課題を整理する設問が追加され、さらに音声情報も追加されます。

※2022年より「グローバル思考力特待入試」に名称変更。

「難関思考力入試」の合格者の声:A.Hさん(中1)

聖学院は図書館が充実しているし、PBLや「糸魚川農村体験学習」など体験型の教育を重視しているので、学校探しの段階から母がとても興味を持っていました。僕も知識を詰め込む勉強より考える勉強のほうが好きだったので受験を決めました。5年生の時から「思考力セミナー」にはすべて参加したのですが、そのおかげで最初の頃に比べると言葉で説明することがかなり得意になり、作文もたくさん書けるようになりました。白山市の地域活性化の課題については、ただ人に来てもらうのではなく、自然と共生できる方法はないかと考えて解答しました。今後は、さまざまなプロジェクトに参加するのが楽しみです。

「思考力入試」が目指すのは、「ものづくり」そして「ことづくり」。

「課題への解決策」を創造する、そして「新しい価値」を創造する入試。

これら3種の試験について、「思考力入試」を最初の段階から牽引してきた21教育企画部部長であり、広報部部長でもある児浦良裕先生はこう語ります。

21教育企画部部長/広報部部長 児浦 良裕 先生
※写真撮影時のみマスクを外していただきました。

児浦先生:「『ものづくり思考力入試』はレゴブロックで作品を作り、作文を書き、作品を紹介し合って、他の人の作品を客観的に観察して良いところなどをワークシートに書いていくというもの。入学後の伸びを追跡してみたところ、『思考力入試』で様々なことに興味関心を持っている受験生や他者の発表から学び取ろうとしている受験生が、その後、より成長していることがわかりました。そこで、『M型〜』も来年度からリニューアルします。『ものづくり〜』のほうは課題解決のために情報を読み取る設問が多いので、『M型〜』はもっと感性寄りに、デザイン思考的にしようと。例えば、『この模様はあなたにとってどういう意味をなすか?』と価値を問うわけです。そして言葉やイラストでデザインをして、『ものづくり〜』と同様、他者との共有タイムを設ける予定です。また、『難関思考力入試』では課題への解決策をレゴで表現し、説明文を書きますが、その後、共有タイムを経て面接でプレゼン&質疑応答を行うなど、やや難度の高いものになっています」

つまり、『ものづくり思考力入試』と『難関思考力入試』が「課題への解決策を創造するもの」とすれば、『M型思考力入試』は「新しい価値を創造するもの」になります。同校流に言えば、「ものづくり思考力入試」「難関思考力入試」は「ものづくり入試」、「M型思考力入試」は「ことづくり入試」というわけです。

児浦先生:「思考力入試の採点には精度を担保するために、受験生1人に対して5〜6人の教員が関わり、さまざまな観点から受験生を見ていますが、受験生に望むのは、一つでもいいので『好きなこと』を持っている、もしくはいろいろなことに興味・関心のアンテナを持ってほしいということです。正確に知識を身につけることが多少苦手でも、それさえあれば必ず入学後に伸びていきますから。本校には多様な経験の機会が豊富にありますので、そこで成功も失敗も経験し、自分の器を大きくしていくことができます。実際、思考力入試で入学してきた生徒の多くが学年でも上位の成績を収めていますし、主体的に、積極的に諸活動に励んでいますね」

ソーシャルスキルを育む6年間。一人ひとりに成長ストーリーがある。

ソーシャルスキルを育む6年間。一人ひとりに成長ストーリーがある。

同校のプログラムは、すべて生徒たちの意欲を発揚するための「種」です。その種を自分ならどう育てるか、生徒たちは試行錯誤を繰り返しながら経験を積み重ね、自分の器を大きくしていきます。

【探究・PBL型教育/体験学習】
児浦先生:「例えば、田植えや植林体験をしながら農家に民泊する中3の『糸魚川農村体験学習』は、地域とつながることで社会をどう変えていくかを考えることがテーマですから、単発のものではなく、その後も活動を継続していきます。昨年の中3生たちは糸魚川を盛り上げるために、クラウドファンディングでお金を集めて『糸魚川ガイドブック』を作り、数千冊刷って配布しました。ほかにも、糸魚川市で5インチゲージ(鉄道模型)を走らせるイベントを催したり、かなり精力的に動いていましたね」

【グローバル教育/課題解決型海外研修】
海外研修の中でも、開始から32年が経つ「タイ研修旅行」は同校で一番人気。山岳少数民族との交流やボランティア活動を主な目的としているため、生徒たちの視線は自ずと世界課題の背景へと向けられていきます。また、昨年新設した「カンボジアMoG(Mission on the Ground)でも社会問題の現場を訪れ、社会起業家の方たちと問題解決に挑みます。ちなみに、「カンボジアMoG」は高校生向けのプログラムですが、昨年、ある中3生が強く希望したため、特例で参加を許可したそうです。規則だからと阻むことなく、生徒の意志や希望を決して置き去りにしないこの柔軟性も、同校の大きな特徴です。

取材Memo

資質を発掘する大きなきっかけ。
「受験生には『好きなこと』、もしくは『興味・関心のアンテナ』を持っていてほしいです。正確に知識を身につけることが多少苦手でも、それさえあれば入学後に必ず伸びていきます」という児浦先生の言葉は、まさに「思考力入試」が教科型入試では測りきれない資質を発掘する大きなきっかけとなっているとともに、新たな学力観・入試観にも合致していることを実感させられました。学校生活のどのシーンでも「Only One for Others」が貫かれている同校。「自分らしさを自ら見出し、その賜物を用いて他者のために、世界のために貢献する」人になるために、トライ&エラーを繰り返しながら世界貢献への志を芽吹かせ、さまざまな課題をブレークスルーする意欲を増幅させていく生徒たちは、次代を担う若者として頼もしい限りです。